金属3Dプリンターの原理と仕組み、製法と種類を一挙公開

注目が集まる金属用の3Dプリンター

2014年に特許が満了となり、注目が集まるレーザー焼結法。SLS(Selective laser sintering)ともいわれるこの技術は、一般的に金属材料の3Dプリンターの製法として知られている。

金属の3Dプリンターが注目されている理由の第一は、特許満了ともなれば、その技術を利用し、安価な廉価版などの開発が進むためだ。既に、プラスチックの3Dプリンターとして主力である熱溶解積層法(FDM、2009年に満了)や、光造形(SLA、DLP、2006年に満了)が、特許満了しており、それに伴って低価格なデスクトップモデルの開発が進んでいる。

これと同じ現象が、レーザー焼結法と呼ばれるナイロンパウダーや金属粉末を使ったSLSの3Dプリンターにも起こるとされている。

既に、何社かはレーザー焼結法の技術を利用した廉価版の3Dプリンターの開発に成功しているが、実際の口コミや評判などは海外メーカーであることから中々伝わっておらず、流通もそこまでしているわけではない。しかし、安価な金属3Dプリンターが利用できるようになれば、プラスチックと同様、金属材料によるものづくりのハードルが一気に下がると予測されている。

とはいえ、一言で、金属用3Dプリンターといっても、その製法は様々であり、一般的に知られるレーザー焼結法(通称SLS)以外にも様々な製法が存在している。特許の失効により開発のハードルが低下するのはともかく、デジタルデータからダイレクトに製造することができる技術は、これからのクラウドを中心としたものづくりにおいては、大きな影響を与えることは間違いない。

そのため、本項では、「金属3Dプリンターの原理と仕組み」ということで、多様な金属用3Dプリンターの種類についてご紹介したいと思う。そこには人類の歴史上において重要な役割を果たしてきた金属加工を更に進化させ拡大する取り組みがうかがうことができる。

金属パーツをデジタルデータから高性能に作り出す金属用3Dプリンター 画像提供:EOS

金属加工の幅を広げるテクノロジー

金属はプラスチックと同様、あらゆる種類が存在し、同時に加工方法も多岐にわたっている。叩いて加工する鍛造や、溶かして型に流し込む鋳造、熱を加えて接合する溶接や、刃物で削り取る切削など、金属加工の幅は驚くほど広い。

また金属加工は、数ある製造技術の中においても、最も古い加工技術であると同時に、人類の進歩とともに進化してきた最先端の加工技術である。

例えば鋳造などは、古代の仏像や装飾具を作るために利用されていたが、現代でも航空宇宙産業などでは主力の加工技術である。こうした金属加工のほとんどが数千年の歴史を持つ中において、3Dプリント技術は比較的新しい造形技術に分類されるといえるだろう。

基本的に”3Dプリント“というと、印刷という印象を受けるが、端的に表現するとすれば、”物体を積層することで形にする技術“と言い換えることができる。金属用の3Dプリント技術も、さまざまな形状(粉末や液体など)の金属材料を設計データの通りに積み上げて形にしていく。

現在では、プロトタイプの製造や、小ロットパーツの生産などに利用が開始されているが、この技術の革新的な点は、モノ、製品に関わるあらゆる面に影響を及ぼすが、プロダクトを作る製造者、メーカーと、その製品を手に取り使用するユーザー、双方において大きなメリットをもたらすことになる。

生産者の側にとっては、量産用の設備に比べ、はるかに低コストで物体を作ることができ、同時に、細かいユーザーニーズに対応しやすくなる。

一方、ユーザーは、自らに最適化された製品にカスタマイズできることで、より製品を通じて豊かに暮らせるようになる。また、デジタル技術を核にすることから、サプライチェーンを変革し、これまで発生していたコストを大幅に減らすことになるのである。

これが一般的な3Dプリント技術の影響ではあるが、こと金属3Dプリンターに関していえば、先にご紹介した、古くから存在する様々な金属加工技術との使い分けにより、更なる価値を拡大することが可能になる。

実は豊富な種類を誇る金属用3Dプリンター

金属の3Dプリンターは、このSLS、レーザー焼結法以外にも、多数の造形技術が存在する。金属3Dプリンターの仕組みは、基本的には粉末状の金属を使ったパウダーベッド(金属パウダーにレーザーやビームを当てて固める方法。

日本語訳だと粉末床溶融結合といったわかりにくい名称になる)がベースだが、レーザー焼結法以外にも様々な種類の製法が存在する。また最近ではこのパウダーベッド以外の方法も登場してきている。ここでは、SLSレーザー焼結法も含めた金属3Dプリンターの種類や、原理と仕組み、特長や用途、材料についてご紹介しよう。

レーザー焼結法:Selective laser sintering(SLS)

Selective laser sintering(SLS)、レーザー焼結法は金属3Dプリンターの中では最も有名で、パウダーベッド(粉末床溶融結合)製法でも最も知られている製法の一つである。基本的な製法は、粉末状の金属材料にレーザービームを照射して、焼結して物体にする。お次にご紹介するdirect metal laser sintering (DMLS)と造形へのアプローチは一緒だが、レーザー焼結法(SLS)と技術的な部分が異なる。

レーザー焼結法(SLS)の歴史 開発から3Dsystems買収

レーザー焼結法(SLS)は、アメリカの発明家であるカール・R.デッカード博士によって開発された。博士はテキサス大学オースティン校に在学中、このアイデアを思いつき、修士課程、博士課程の期間、試行錯誤を行い実際の部品を製造することまで成し遂げている。

その後、博士は、テキサス大学オースティン校からこの技術のライセンス供与を受け、Desk Top Manufacturing (DTM) Corpを設立。レーザー焼結法(SLS)の3Dプリンターのメーカーにまで成長させることに成功した。このDTM社は、2001年に4500万ドルで3Dsystems社に買収され、現在同社の金属造形マシーンProXシリーズに技術が活かされている。

レーザー焼結法(SLS)の原理と仕組み

レーザー焼結法(SLS)の原理は、粉末状の素材(金属、ナイロン、セラミックなど)にレーザーを照射して焼結させる方法である。高電力のレーザーが使用され、物体の形状に従って一層ずつ造形していく。

もともとレーザーは、工業用に切断や溶接で用いられていたが、固体粉末の融点よりも低い温度でレーザーを照射すると固まって焼結体と呼ばれる緻密な物体になる。レーザー焼結法はこの金属の物質としての特性を利用して作られた技術であり、量産加工ではないオンデマンドの製造技術として期待される。

金型や鋳造での成型方法は、熱可塑性樹脂や金属を完全に溶かした後、型に入れて冷却し固形化するが、焼結の場合は融点よりも低い温度であるため、物体は完全には液体状にならない。

従来からの形状を保ちながら物体として融合、一体化することができる仕組みである。焼結によって作り出される物体は、密度や強度は大きくなる特性がある。

レーザー焼結法(SLS)の仕組みは、造形ステージに粉末材料を敷き詰めてそこにレーザービームを照射する。一般的には粉末供給部が左右にあり、ローラーで粉末を供給しながら造形していく。1層分の造形が終わると、造形ステージが1段下がり次の層の造形を開始する。基本的に粉末状の材料の中で造形されるため、そのほかの3Dプリンターで当たり前のサポート材は不要となる。

レーザー焼結法、通称SLSといわれる金属粉末の3Dプリント。 画像提供:EOS

レーザー焼結法(SLS)の特長とメリット

レーザー焼結法(SLS)の最大の特長は、材料によっては最大100%の密度で、従来の物質本来が持つ材質と同等に近い材料特性を実現することができる。

より端的に言えば、最終品として使用することができるレベルの造形が可能であるということになる。例えば金属ではないが同じくレーザー焼結法(SLS)に対応しているプラスチック材料、ナイロンポリアミドでは、ナイロン本来が持つ強度や、柔軟性、靭性といった特性を実現することができる。

こうした材料特性の再現性は大きく、最終品の製造マシーンとしても利用が可能になる。従来の伝統的なものづくりの手法、射出成型や鋳造、鍛造などでは、量産を想定しているため巨大な設備と初期投資が大きく、形状の修正や変化にも多額のコストが必要であったが、レーザー焼結法(SLS)であれば、プロトタイプだけではなく最終品の製造用途としても利用することができる。

近年、特許失効とともにレーザー焼結法(SLS)が急速に注目されている理由はこの点にあるといえるだろう。

レーザー焼結法(SLS)の短所

一方、レーザー焼結法(SLS)の3Dプリンターは、装置そのものが高額であり、簡単に導入することが難しい。特許満了によって、安価な廉価版が期待されているのも、マシーンそのものの導入が大掛かりで、高額なためだ。また短所としては、表面の仕上がりがパウダー粒子のざらざら感があり、滑らかな質感を表現する事が難しい。

レーザー焼結法(SLS)の材料

レーザー焼結法(SLS)の材料は、基本的に単一ではなく、一般的にコーティングされた粉末素材を使用する(原理が同じDMLSは単一素材)。この混合粉末材料はボールミルによって粉砕され、混合されて作り出される。

ボールミルとは円筒形の筒に材料を入れて回転させながら、材料をすりつぶして微細な粉末を作る装置のこと。レーザー焼結法(SLS)では、金属粉末では鉄、チタン、銅、その他の合金、プラスチック粉末ではガラス繊維やその他の充填剤が配合されたナイロン、さらにセラミックやグリーンサンドなどにも対応している。

レーザー焼結法(SLS)の代表的な3Dプリンター

レーザー焼結法(SLS)の3Dプリンターで代表的な存在は、何社か存在しており、基本的にドイツとアメリカのメーカーが中心である。また、2014年に特許満了を迎え、廉価版メーカーも少しずつ登場してきている。ここでは、代表的なレーザー焼結法(SLS)のメーカーをご紹介しよう。

EOS:世界最大の金属3Dプリンターメーカー

お次にご紹介する金属3Dプリンターの技術であるDMLSとともに有名なのが、ドイツのメーカーEOSである。EOSは、レーザー焼結法(SLS)と、DMLS直接金属レーザー焼結で世界一の市場シェアを誇っている。

EOSは、もともと光造形(SLA)のメーカーとしてスタートしたが、早くからレーザー焼結法のライセンスを取得し、独自開発を行ってきた。1997年に光造形(SLA)の事業を3Dsystemsに売却後、レーザー焼結法(SLS)に特化し、高出力のイッテルビウムファイバーを使用するレーザー焼結法、(DMLS:直接金属レーザー焼結)のマシーンの製造開発であらゆる金属素材のデジタル製造に成功している。

また、近年では、のちにご紹介するSelective laser melting(通称SLM、レーザー溶融法)の技術開発に力を注いでいる。

レーザー焼結法、DMLSのリーディングカンパニーEOS

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3Dsystems:レーザー焼結法(SLS)の開発元を買収

また、レーザー焼結法(SLS)の3Dプリンターメーカーでは、この技術を開発したDTM社を買収した3Dsystemsがあげられる。3Dsystemsは光造形法を開発したメーカーだが、3Dプリント事業を多角化しており、レーザー焼結法のラインナップProX DMPシリーズを提供している。この買収されたレーザー焼結法(SLS)そのものを開発したのが、レーザー焼結法の歴史の部分でもご紹介したDTM社である。

直接金属レーザー焼結法:Direct metal laser sintering(DMLS)

Direct metal laser sintering、通称DMLS(日本語で直訳すると直接金属レーザー焼結法)といわれる3Dプリント技術は、基本的な原理や仕組みはSLS、レーザー焼結法と一緒である。ただし、SLSと異なる点は、レーザービームの原理などが異なる。

SLS、レーザー焼結法では、炭酸ガスレーザーが使用されるが、DMLS、直接金属レーザー焼結法では、イッテルビウムレーザーが使用される。

イッテルビウムファイバーレーザーは主に金属の切断などに使用される高出力のレーザービームで、出力安定性に優れ常に同じサイズを安定的にキープできる。

また、小さなスポットサイズでも高精彩な造形ができるのが特長である。DMLS、直接金属レーザー焼結法では、高出力200ワットのイッテルビウムファイバーレーザーが使用される。三次元データのスライスから、20マイクロメートルの層の厚さで積層可能で、比較的短時間で精密な造形物を3Dプリントできる。

造形物は、高解像で優れた表面品質、優れた機械的特性を発揮でき、高クオリティの造形が実現可能だ。このDMLS、直接金属レーザー焼結法では、ドイツのEOS社が1994年にライセンス契約し独自の開発を行っている。

直接金属レーザー焼結法(DMLS)の特長とメリット

直接金属レーザー焼結法(DMLS)は、これまでの伝統的な金属の製造技術に比べて多くのメリットを持っている。直接金属レーザー焼結法(DMLS)のメリットで第一に挙げられるのが、ほとんどすべての金属合金を使用することができる点にあるだろう。

それによって、最終品と同様の素材が扱えることから、すぐさまプロトタイプのテストに使用することが出来、更には少量生産にもつなげることができる。

また、これは3Dプリント技術の共通する特徴だが、従来の鋳造や鍛造といった金属加工では再現することが不可能な設計、(例えば、中空の特殊な形状など)を実現することが可能で、機能性に優れ、より費用対効果の高い金属パーツの造形が可能となる。

こうしたことから、DMLS、直接金属レーザー焼結法は、金属パーツを多用する航空宇宙産業や、自動車業界などで注目され重宝される3Dプリント技術である。

直接金属レーザー焼結法(DMLS)の材料

直接金属レーザー焼結法(DMLS)はほとんどすべての金属合金を扱うことができる。主な金属材料として、ステンレス鋼(17-4、15-5)、マレージング鋼、アルミニウム(AlSi10Mg)、チタン(Ti6Al4V)、コバルト、クロム、インコネル(625、718)などがあげられる。

直接金属レーザー焼結法(DMLS)の主な用途と事例

直接金属レーザー焼結法(DMLS)は、その精密性、多様な金属合金への対応から、さまざまな業界で使用されている。航空宇宙産業、歯科、医療、自動車など、そのニーズはさまざまだ。

直接金属レーザー焼結法(DMLS)の特長とメリットの部分でも述べたが、ほとんどの金属合金を高精度に造形できることから、従来の製法に比べて、コストやリードタイムが格段に効率化することができる。

例えば、航空宇宙産業では、ガスタービン用のパーツなどにEOSの直接金属レーザー焼結法(DMLS)の3Dプリンターと、ニッケルクロムモリブデン鋼が使用されている。2013年にはIT起業家として名高いイーロン・マスク率いるSpaceXのロケットエンジンSuperDracoのパーツが、EOSの金属3Dプリンターとインコネル超合金で作られたことが発表された。

また、2014年にはSuperDracoのエンジンで動作するチャンバーユニットが、インコネルとニッケル、鉄の合金によって3Dプリントされ、テストに合格している(飛行は2017年予定)。

このように直接金属レーザー焼結法(DMLS)によって作られた金属合金パーツは、最終品として使用可能な機械的特性を備えており、多くの分野での利用が期待される。

様々な業界で使用される金属3Dプリンター。写真は航空宇宙産業用パーツ。ニッケル合金IN718  画像提供:EOS
歯科用にも使用が盛ん

レーザー溶融法:Selective laser melting(SLM)

SLS、レーザー焼結法やDMLS、直接金属レーザー焼結法は、レーザービームによる“焼結”によって金属合金の物体を作る3Dプリント技術だが、レーザー溶融法(SLM)は、レーザービームによる照射は同じだが、“溶融”することで物体にしていく技術である。材料は同じ金属粉末を使うが、造形に至るプロセスが若干異なる。どちらかというと、以下にご紹介するARCAMなどの電子ビーム溶解法に近い技術になる。

レーザー溶融法(SLM)の歴史

このSLM、レーザー溶融法は、欧州最大の研究開発機関であり、ドイツのミュンヘンに本部があるフラウンホーファー協会の研究所で開発された。

ちなみに余談だが、フラウンホーファー協会は、年間20億ユーロもの巨額の研究資金を持つ最先端技術の研究機関で、その分野はコンピューターアーキテクチャから、バイオテクノロジー、各種製造技術,物流・ロジスティックス、通信などあらゆる分野に及ぶ。

フラウンホーファーモデルといわれる独自の仕組みを持ち、中央政府、産業界、地方政府と研究予算を分担し、起業家的な取り組みをすることで急成長する仕組みが評判となっている。

話が脇道にそれたが、SLM、レーザー溶融法は、1995年にドイツの研究プロジェクトとして開始され、ILT SLMとして特許が取得された。

実際に3Dプリンターとして商用利用が開始されたのは2000年代初頭からで、当時のMTT Technologies社、現在のSLM Solutions社から製品化された。その後、SLM Solutions社は、2014年ドイツ証券取引所にIPOを果たし、SLM 3Dプリンターメーカーとして独自の進化を果たしている。

また、のちに代表的な3Dプリンターの項目でご紹介するが、レーザー溶融法(SLM)のドイツメーカーとしてCONCEPT LASER社が存在する。

焼結とは違い、溶融で金属合金を作る技術。

レーザー溶融法(SLM)の原理と仕組み

レーザー溶融法(SLM)は、レーザー焼結法(SLS)、直接金属レーザー焼結法(DMLS)と同様、金属粉末にレーザービームを当てて固める仕組みだ。

ただ、上記の2つとは違い、焼結ではなく溶かして積層する”溶融”という手法を採用している。STLベースの3DCADデータをスライスし、層ごとにレーザービームを照射する。一層を固めるとパウダーベッドによって上から金属粉末をかぶせ、そこにレーザーを当てて固めるという作業を繰り返す。

ベースとなるレーザーは、直接金属焼結法(DMLS)と同様、高出力のイッテルビウムファイバーレーザーが使用されるが、DMLSの出力が200ワット程度にくらべ、レーザー溶融法(SLM)では、400ワットほどの高出力になる。下記は、SLM Solutions社の動画だが、金属粉末をかぶせながら物体化される様がわかる。

レーザー溶融法(SLM)の特長とメリット

レーザー溶融法(SLM)の特長は、レーザー焼結法(SLS)や直接金属レーザー焼結法(DMLS)と同様、実際の金属合金を使いダイレクトに高精度で機械的強度を持つ金属パーツが作れる点にある。また上記の二つの製法同様、デジタルデータからダイレクトに金属パーツが作れるため、従来の伝統的な製法に比べてコスト、リードタイム、設計の面から画期的な効果が期待できる。

レーザー溶融法(SLM)の材料

レーザー溶融法(SLM)でも多くの金属合金に対応している。代表的なものとして、チタン、ニッケル、アルミニウム、コバルト、クロム、ステンレス鋼、マレージング鋼、ブロンズなどである。

レーザー溶融法(SLM)の代表的な3Dプリンター

レーザー溶融法(SLM)の代表的なメーカーは、2社存在する。レーザー溶融法(SLM)そのものが発明されたのがドイツからだが、2社ともドイツのメーカーである。第一が、レーザー溶融法(SLM)の最初の商用利用機を開発したSLM Solutions社だ。

そして第二が、つい先日GEに買収されたConcept Laser社である。ちなみに、この買収劇は、紆余曲折があり、当初GEが買収交渉を進めていたのがSLM Solutions社であったが、SLM Solutions社はGEの75%の株式取得案を拒否。結局、同じレーザー溶融法(SLM)のメーカーConcept Laser社の株式75%にあたる5億9900万ドルの取得で合意し、落ち着いている。

SLM Solutions社

SLM Solutions社は、レーザー溶融法(SLM)の最初の商用機を開発したメーカーである。現在は成長著しいドイツの中堅企業500社のうち第12位にランクインしている(FOCUS社)。

また、2014年にはドイツ証券取引所でIPOにも成功しており、事業活動をますます活発化させているようだ。このSLM Solutions社の歴史は古く、もともと1863年のボリビアのビスマス鉱山採掘から始まっており、金属加工の分野で歴史の変遷とともに進化してきた経緯を持つ。

レーザー溶融法(SLM)を開発した当時はMTT Technologiesグループとしての開発であったが、現在はSLM Solutionsに統一された。同社が開発したマシーンは、SLMという名前の3Dプリンターで、チタン、ステンレス鋼、アルミニウム、コバルト・クロム、ニッケル合金などの金属粉末を使って加工可能だ。

主な産業として航空宇宙産業、自動車、歯科エンジニアリング、金型などで利用されており、着実に用途が拡大してきている。例えば歯科エンジニアリングでは、生態適合性があるコバルト・クロムや、チタンによって歯科用キャップや歯科用モデルが製造されている。

また、金型ではタイヤのトレッドパターンの金型製造に用いられており、従来の金型製造を超えるスピードで精密な金型造形を行っている。

Concept Laser社

お次にご紹介するレーザー溶融法(SLM)のメーカーはConcept Laser社だ。先に述べた通り、Concept Laser社はGEに75%の株式を売却して買収された。

Concept Laser社もSLM Solutions社と同様、レーザー溶融法(SLM)としては最も有名な企業の一つで、この分野では100以上もの特許を取得・出願を行っている。基本的な造形プロセスは、SLM Solutions社と同様、金属粉末を使い、レーザービームを照射して造形していく。

SLM Solutions社と比べて、製品ラインナップの幅が広く小型造形から大型の造形が可能なマシーンまで備えている。

例えば最大規模の3DプリンターX line 2000Rでは、800 x 400 x 500 mm3のサイズまで造形が可能だし、小型のMlab cusing / Mlab cusing R 3Dプリンターでは90 x 90 x 80 mm3のサイズまで造形できる。

ちなみに大型のX line 2000Rは、推定価格は150万ユーロ(約1億7千万円)ほどで、最終製品を製造することができる。実際、航空宇宙産業ではエアバスなどの3Dプリント専用子会社がこのマシーンで最終品のパーツを製造している。

Concept Laser社の金属3Dプリンターも、SLM社同様、航空宇宙産業や自動車、歯科エンジニアリング、金型、ジュエリーなどの業界に使用されており、エンドユースパーツが作れる高性能機として今後も需要が増しそうだ。また、GEの傘下に入ることで、航空宇宙産業での利用もさらに拡大しそうである。

電子ビーム溶解法:Electron Beam Melting(EBM®)

金属粉末の3Dプリンターは、これまでご紹介してきたようなレーザービームによる積層法のマシーン以外に、電子ビームによる積層法も存在する。電子ビームとは、高真空中でフィラメントを加熱し放出された電子を電磁コイルでコントロールし照射するビームのこと。

上記のレーザービームに比べて高出力、高速なのが特徴である。この電子ビーム溶解法(EBM)は、1997年創業、スウェーデンの3DプリンターメーカーARCAM社が圧倒的なシェアを持ち、200以上もの特許を取得、航空宇宙産業から外科用インプラントまで幅広い業界に製品を供給している。

電子ビーム溶解法(EBM)の原理と仕組み

電子ビーム溶解法(EBM)は、レーザー焼結法と同様、金属粉末に電子ビームを照射して溶融する仕組みである。高真空中で照射される電子ビームは、レーザービームに比べて高出力、高速であり、精密な金属パーツを正確に3Dプリントすることができる。

電子ビーム溶融法(EBM)では、金属粉末全体を一定温度まで加熱した後に、造形部分に高融点の電子ビームを照射することから、レーザー焼結法などで懸念される残留応力による形状変化は起きないとされている。

ちなみに真空化における造形温度は1000度の高温に達し、高精度にパーツが溶融される。対応している金属粉末はチタンやコバルト・クロム、インコネルといった材料で、粉末原料はあらかじめ合金化され、造形が早い。

電子ビーム溶解法(EBM)の材料

電子ビーム溶解法(EBM)の材料は、チタン、コバルト・クロム、インコネルなどに対応している。また、銅、金属ガラス、ステンレス鋼などの開発も行われている。

電子ビーム溶解法(EBM)の代表的な3Dプリンター

電子ビーム溶解法(EBM)の3Dプリンターメーカーは、先にも述べた通り、スウェーデンのARCAM社が有名である。ARCAM社は、1997年にストックホルムで設立された3Dプリンターメーカーで、電子ビーム溶解法のEBMも同社の登録商標である。現在はNASDAQ市場にも上場を果たしており、この分野では圧倒的な存在である。

ARCAM

ARCAM社の電子ビーム溶解法(EBM)の3Dプリンターは、3つのラインナップから構成される。整形外科用インプラントに特化したARCAM Q10plusから、航空宇宙産業のためのARCAM Q20plus、さらにARCAM Q20plusを強化し、航空宇宙産業のパーツ生産、材料開発に特化したARCAM A2Xと、航空宇宙産業と整形外科用インプラント市場に特化している。3機種とも、プロトタイプの製造から、量産にも対応したマシーンで、チタンやコバルト・クロム、インコネルといった合金パーツの生産を可能にしている。

ARCAM社は電子ビーム溶解法のリーダー。

溶融金属積層法(金属ワイヤーの電子ビーム積層法)

上記の電子ビーム溶融法(EBM)は、金属粉末に電子ビームを照射して溶融する方法だが、もう一つ、金属ワイヤーを用いて電子ビーム積層する方法も開発されている。この方法は、溶融金属積層法ともいわれ、いわば金属の熱溶解積層法(FDM)と表現することもできる。

この方法では、ワイヤー状の金属素材を電子ビームによって溶かしFDMのように積層して固めていく方法で、そのほかの金属粉末積層技術に比べて、早くて安いということがあげられる。ただし、金属粉末の積層造形に比べて精度が荒くなりやすいという欠点がのこる。

レーザー直接積層法:Laser engineered net shaping(LENS)

金属粉末を使った新たな3Dプリント技術として開発されているのが、レーザー直接積層法(LENS)と呼ばれる製法である。別名、Direct Metal Tooling(通称DMT)とも呼ばれるこの手法は、従来、金属粉末造形で一般的であったレーザー焼結法(SLS)を超える3Dプリント製法として注目が集まっている。

通常、レーザー焼結法(SLS)やレーザー溶融法(SLM)では、粉末パウダーに直列レーザービームを照射して焼結していくが、このLENS、レーザー直接積層法は少しアプローチが違る。

その方法は金属粉末にレーザーを照射する仕組みとは違い、ノズルから金属粉末を溶融プールに落とし、レーザーで焼結して体積していく方法になる。この方法の最大の特長は、SLS、レーザー焼結時に起きる残留応力による形状変化を防ぎ、レーザー焼結法(SLS)に比べて滑らかな加工が可能になる。

また、造形スピードもレーザー焼結法(SLS)の4倍高速で、材料コストも半分近くまで抑えることができる。この技術はアメリカのエネルギー省管轄の国立研究機関、サンディア国立研究所が開発したもので、ステンレス鋼、ニッケル系合金、チタン合金といった汎用性の高い金属粉末を利用できる。

主な用途は小ロット生産から金型まで、現在のレーザー焼結法(SLS)や、レーザー溶融法(SLM)で使用されるアプリケーションに対応可能であり、粉末造形の進化版として注目されている。

液体金属のインクジェット3Dプリント:Liquid metal jet printing

これまでご紹介してきたのは、金属粉末が中心の3Dプリンターだが、全く別のアプローチから金属のダイレクト製造を実現しようという3Dプリンターも登場している。XJetといわれる3Dプリンターは、液体金属のインクジェット3Dプリンターともいえる存在で、超高精細の金属パーツを作ることが可能だ。

このLiquid metal jet printingと呼ばれる技術は、ナノ粒子の液体金属を噴霧し、300℃近い高温で加熱して固める技術である。毎秒2億2100万滴噴霧することが可能で、1ミクロンよりも小さいサブミクロンレベルで金属パーツを造形できる。

扱うことができる素材はステンレス鋼などを中心に、伝統的に作られた金属部品と実質的に同じ冶金の金属を使用することができ、レーザー焼結法などで起こる残留応力による形状変化なども起きない。この金属のインクジェット3Dプリント技術、Liquid metal jet printingは2005年に設立されたイスラエルのXjetが開発したもので、従来の金属3Dプリントとは全く異なるアプローチとして一躍注目を集めている。

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まとめ 金属3Dプリンターは最終品を形にする新たなテクノロジー

これまでご紹介してきたように金属の3Dプリンターは様々な種類が存在する。その多くに共通していえることが、最終品として扱うことができるレベルの造形が可能だという点だ。

プロトタイプだけではなく、エンドユースレベルの物体が作れ、なおかつ業種も多種多様である。最も利用が著しい航空宇宙産業から自動車業界、医療やエンドユースまで、あらゆる業界での利用が期待されている。また、ほぼすべての金属3Dプリンターが、金属粉末素材をベースに(Xjetのような液体金属を除いて)することでほぼあらゆる金属材料に対応できる点も注目に値する。

また、金属3Dプリント技術のもう一つの特長として、技術開発が著しいということがあげられる。一般的なレーザー焼結だけではなく、レーザー直接積層法のような斬新な発想の製法など、新たな開発が進み、マスカスタマイズ製造の中心技術として進化していくのだろう。

しかしその一方で、どの3Dプリンターも共通していえることだが、ほぼ全てハイエンドな工業用モデルであり、デスクトップ用の開発と普及はまだまだこれからという状況である。今後の進化に期待したいところである。これまで金属加工技術は人類の進歩とともに発展を遂げ、最も伝統的であると同時に最も最先端の加工技術であった。そしてさらに3Dプリント技術の浸透によって、さらに従来の製法との組み合わせが進み、ものづくりの力を高めることにつながるだろう。

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