3Dプリンターを起業家育成に有効利用
3Dプリンターが次なる産業革命を引き起こす技術として注目され、市場規模も年々倍増すると言われている中、世界各国、様々な企業がこぞって力を入れ始めている。
3Dプリンターがもたらすコスト削減効果と性能機能向上という二つのメリットは、自国、自社の競争力を強化する重点分野としてとらえられ、アメリカやヨーロッパの諸国、企業は戦略的に投資を行っている。
一方で、3Dプリント技術は既存の大企業だけではなく、多くの新規事業に挑戦する起業家たちにとっても恩恵を与えている。
これまで製造販売を行う分野まで進出することができなかった個人やデザイナーが、3Dプリント技術とインターネットを駆使することで参入することもできる時代だ。
こうした新たなビジネスを立ち上げる起業家を支援するために3Dプリンターは有効だが、単純に機器のみを提供するだけではなく、より戦略的に起業家を支援する取組が行われる必要があるのではないだろうか。
本日はドイツの3DプリンターメーカーEOSが行う総合的な起業家育成のプロジェクトをご紹介。
金属粉末3Dプリンターで世界一のシェア
EOSは1989年にドイツで創業された工業用のハイエンドな3Dプリンターメーカーだ。3Dプリンターの市場シェアでいうと、アメリカの二つの巨人、3Dsystemsとストラタシスが圧倒的で、この2社で70%以上の市場シェアを誇っているが、金属粉末用の3Dプリンターではドイツが圧倒的である。
金属粉末用の3Dプリンター市場でドイツが占める市場シェアはなんと78%、しかもEOSが1社で占める割合は41%、ほぼ半分に迫る勢いだ。
またEOS社が導入されている業界も多岐にわたっており、航空機産業のエンジンや内装部品、無人航空機に始まり、自動車パーツ、医療業界のインプラント、医療機器製造、ジュエリー、靴、スポーツ用品、射出成型、簡易金型製造など、モノづくりに関するあらゆる分野での経験を持っている。
金属粉末3Dプリンターのシェア
経済産業省資料より抜粋
即戦力企業を育成するより実践的な起業家育成クラスター
様々な業界に対する製造の経験と知識を持つEOSだが、3Dプリンター自体の製造販売の枠を飛び越え新たに起業家育成のためのクラスター構築に動き始めた。
この起業家育成クラスターの創設にあたってはミュンヘン工科大学の技術革新と事業創出のためのベンチャー育成センター「UnternehmerTUM」と共同で進める予定だ。
「UnternehmerTUM」はビジネスモデルのデザインやベンチャーキャピタルなど、起業家がビジネスを確立するための機会を提供し、その技術やビジネスモデルが実装され商用化するための体系的なプロセスを提供している。
具体的な起業家育成クラスターの役割は下記の3つだ。
スタートアップサポート –様々な専門企業とのネットワーク-
このスタートアップサポートでは、起業家がビジネスを開始する核になるビジネスモデルを開発することだ。
上記で書いたように、EOSは様々な製造分野への導入実績を持っており、EOSならではのアドバイスやサポートができることが期待されているようだ。
また、EOSがパートナーシップを持つ3Dプリント業界、電子製造業業界、テクノロジー業界のネットワークを利用することもできる。
その中には世界的な3Dプリントサービスを行うマテリアライズ社や、医療機器専門の開発生産を行う企業、貴金属専用の製品開発を行う企業など、非常に幅広いネットワークを利用することができる。
訓練と継続的な教育の提供
またこの起業家育成クラスターでは、参加する起業家に対して専門的な訓練と継続的な教育が提供されることになる。
そこではテクノロジーや製造技術に関するトレーニングコースやセミナー、研修、など体系的に技術を習得できるようになっており、最終的に汎用性の高い専門技術が習得できるようになっている。
ここでもあらゆる製造業に精通するEOSの知識とネットワークが生かされることになる。
豊富なネットワーク企業との連携
一つ目のスタートアップでも述べたが、ここでビジネスを立ち上げることに取り組む起業家は、年間クラスター会議や定期的なセッションを通して様々なネットワークを利用することができる。
EOSが持つ豊富なネットワークに参加する企業たちは、単純な製造ノウハウだけではなく、効果的な生産体制や材料管理システム、データベースなど様々なノウハウを持っている。
ビジネス化にあたってはこうしたEOSのパートナーの持つ資源と生産ノウハウを利用することができるのだ。
EOSのパートナー企業たち
マテリアライズ
言わずと知れた製造業に対する3Dプリントサービスのベルギーのトップ企業
WITHIN
ロンドンを拠点に活躍する若手デザインコンサルタントグループ
Digital Forming
3Dソフトウェアとプラットフォームを開発する3Dプリント技術に通じた企業
ビクトレックス
イギリスに本社を置く、ポリマー、フィルム等の高性能材料のリーディングカンパニー
PRODINTEC
2004年設立のスペインの非営利技術センター。高度な製品設計と製品開発の研究開発。電子機器、医療用インプラント、航空機産業などで3Dプリント技術を発揮
クックソン貴金属
ヨーロッパの貴金属のリーディングサプライヤー、金、銀、プラチナ、パラジウム合金、ワイヤー、など、様々な貴金属を供給する
これ以外にも多くのパートナー企業を持ち、この起業家支援クラスターではEOS独自の産学連携ネットワークの力を得ることができる状況だ。
まとめ 3Dプリンターの力を戦略的に起業家育成に利用
今多くの業界で3Dプリント技術が注目されている。とりわけ既存の製造業にとってはコスト削減や製品開発などに多くのメリットをもたらすものとして注目を浴びている。
しかし、3Dプリンターを国の競争力を高める戦略兵器としてとらえるならば、優れた技術力やアイデアを持った起業家を育成することに用いることが必要だ。特に年々中小製造業が減少し続けていく我が国にとっては、今回のEOSの興した起業家育成クラスターは大いに参考になるのではないだろうか。
これまでのように、単純に3Dプリンターを購入する費用を行政が拠出し、設置して利用できるようにするだけではなく、もっと戦略的に起業家がビジネスとして確立できる方法論を取るべきだろう。
そうした戦略性という観点から見ると、今回ご紹介したドイツの政策や、アメリカ、シンガポールなどは、自国の産業特性をよく理解した極めて合理的な金の使い方、関係機関との協力体制をしいている。
行政機関の根本精神には公平性というものは欠かすことはできないが、国の競争力や企業競争力を高めるために特定分野への複合的な施策を打つことが公平性に違反することでは決していない。
肝心なのは、その提供する政策と資金によって生み出された企業が、製造業と国の競争力を高め、結果として国民の利益になることが大切なのだ。
昔と違い3Dプリント技術を利用することで、はるかに製品開発がしやすくなっており、必要な資金も過去とは比べ物にならないくらい少なくて済む時代だ。
日本においても3Dプリンターを最大限利用するのであれば、多くの起業家を輩出する実用的なしくみを整えることが必要だ。
日本の3Dプリンター政策はこちらの記事をどうぞ
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