エレクトロニクスでも製造業の回帰を目指すアメリカ。多層プリント基板の3Dプリンターが取引開始

多層プリント基板の3DプリンターNANO DIMENSIONが資金調達

以前、「もう一つのものづくり革命、プリント基板の3Dプリンターが13億調達」という記事でご紹介した、イスラエルの新興企業NANO DIMENSIONが正式に米国預託証券(ADR)の取引市場であるOTCQX市場で取引を開始した。

OTCQX市場はOTC Markets Group Inc.が運営する証券取引市場で、オープンで透明性があり、一流企業にとって最良の証券取引所と言われている。ちなみに米国預託証券(ADR)とはアメリカの金融市場において非アメリカ企業の株式を売買する預託証券のこと。

例えば他国の企業がアメリカ市場において株式による資金調達を行う場合、自国制度や為替の問題で取引が円滑に行われないケースが多い。この米国預託証券(ADR)はこうした、外国企業の資金調達の不都合を解消し、アメリカドルでの売買・決済、配当金の受領を可能にする証券になる。

例えば日本の資生堂などもこの米国預託証券(ADR)をOTCQX市場で取引を開始している。また20以上の国から既に400以上の企業がアメリカ市場で取引を行っているのだ。今回正式にNANO DIMENSIONが取引を開始した。これにより調達される金額は総額1,100万ドル(約13億円)近くに達すると見られており、来年度以降、アメリカ市場を中心に本格的な多層プリント基板の3Dプリンターが登場することとなる。

この影響は絶大で、プラスチックや金属、セラミックといったプロダクトの形を作る素材以外に、機械の機能を再現するプリント基板のオンデマンド製造が可能になる。

アジア中心の全世界2500社以上の基板メーカーへの影響とは

NANO DIMENSINOの機能と性能については、以前もご紹介したので改めてここでは述べないが、簡単にその概要を説明すると、銀ナノ粒子インクと絶縁ナノポリマーインクを含む導電性ナノインクによる多層プリント基板をデジタルデータから1枚単位で作ることが可能となる。

ちなみにプリント基板メーカーは全世界に約2500社あると言われており、中国、韓国、台湾、日本がそのほとんどを占める。その市場規模はプリント基板単体で4兆円近く、材料では2兆円規模にも登る。通常プリント基板を作る場合には、専用の設計ソフトで描いたデータを基板メーカーに送り、試作、製造を行ってもらう。

料金は電子回路の複雑さ、多層レベル、大きさなどによって異なるため一括りにはできないが、どんなに簡単な回路図でも試作を製造するだけで数万円から10万円以上のコストはかかる。その後枚数に応じて量産するという仕組みは樹脂成形などと同様である。

つまり、このNANO DIMENSINOのような多層プリント基板を1枚単位で3Dプリントできるマシーンが登場すれば、試作ごとに応じて数万円から数十万円のコストをかける必要がなくなるわけだ。また試作にかかるリードタイムも基板メーカーに発注した場合には最低1週間程度、基板の内容によってはそれ以上もかかることになる。こうしたリードタイムも3Dプリンターで作ることができれば圧倒的な競争力につなげられることになる。

NANO DEMENSION動画

電子回路設計の試作を大幅に効率化

このプリント基板の3Dプリンターがもたらす影響は計り知れないだろう。ハードウェアの設計、製造を行う企業にとって、わざわざ高いコストと時間をかけてプリント基板メーカーに試作を発注する必要がなくなるわけだ。極端な話、NANO DIMENSIONがあれば、その場で設計したプリント基板を出力、動作確認を行うことだってできる。

また新たにハードウェアを開発するベンチャー企業にとってもこの3Dプリンターは画期的である。起業段階で極力コストを抑え、尚且つスピーディに製品開発を行いたい起業家にとっては最適なマシーンだ。樹脂成形が、金型を作り、改良を行う度に金型を作り直し、その度に大幅な時間とコストを消費していたのと同様、プリント基板のプロトタイプ製造でも、修正と改良は当たり前。

しかし、3Dプリンターが金型製造のコストと時間を短縮したのと同様、多層プリント基板のNANO DEMENSIONも大幅に電子回路設計の試作を大幅に効率化するだろう。

まとめ エレクトロニクス製造にも地殻変動が起きる

アメリカは3Dプリント技術によってものづくりに革命を起こし、同時にその波を全世界に向かって発信しようとしている。既に従来の3Dプリンターの枠を超え、NANO DEMENSIONのような多層プリント基板の試作を可能にする3Dプリンターや、樹脂成形の内部に電子回路設計を取り込む3Dプリンターの開発などを行っている。

この動きはこれまで当たり前のようであった製造現場を大きく変革し、国を超えて影響を与えそうだ。例えば既に述べた世界中のプリント基板メーカーは大きな打撃を受けるだろう。NANO DIMENSIONのようなプリント基板の3Dプリンター普及すれば、試作製造に関する仕事はよほど特化した特別な技術がない限り発注する必要性は減少する。

またNANO DIMENSIONの精度や多層レベルがもっと向上すれば、今樹脂成形の3Dプリンターで起こっているように、プリント基板のダイレクト製造が可能になる。それこそ安価な人件費や生産コストを求めて他国の企業に発注する必要も減少するだろう。そうした点からもハードウェアの試作を飛躍的に高める多層プリント基板の3Dプリンターが及ぼす影響は巨大だと言える。

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