電子回路基板の3Dプリンターがジェームズダイソンアワード2015を受賞

ジェームズダイソンアワード2015を受賞した電子回路3Dプリンター

サイクロン式掃除機を開発したジェームズダイソン。紙パック式の掃除機が常識であった掃除機業界に、「吸引力が変わらない」という触れ込みで、圧倒的な人気をほこるサイコロン式の掃除機を発明した人物だ。ダイソンは5年間の開発期間で2000台から5000台にも及ぶプロトタイプを開発したと言われており、その不屈の信念と新たな価値を与えるプロダクト開発でしられる人物。

今では自らの出身校でもある英国王立美術大学(ロイヤル・カレッジ・オブ・アート)の学長をも務め、デザイン教育にも力を注いでいる。そんなダイソンのものづくりに関する考えでは、製品開発を行うものは、デザインとエンジニアリング両方ができなければならないというもの。

こうした考えのもと、デザインエンジニアを育成し、支援する目的で毎年、国際的なデザインアワード「ジェームズダイソンアワード」を開催している。2002年の開催以来、毎年世界中十数カ国から数百名の学生が応募するこのデザインアワードでは、革新的で世の中にインパクトを与えるようなプロダクトが表彰している。

そのような中2015年度の国際最優秀作品が決定した。本日はジェームズダイソンアワード2015を受賞した2層まで電子回路をプリントできるプリント基板の3DプリンターVoltera V-ONEをご紹介しよう。

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エレクトロニクス製造・開発の民主化をダイソンが評価

今回ジェームズダイソンアワード2015を受賞したVoltera V-ONEは、プリント基板のカスタムオンデマンド製造ができる3Dプリンターだ。この既Voltera V-ONEを開発したのはカナダのウォータールー大学の卒業生チームが開発したもの。既に昨年の12月に登場し、キックスターターでは50万ドルもの資金調達に成功し実用化にこぎつけている。

ジェームズダイソンアワードではさまざまな観点から審査が行われ受賞が決定するが、このVoltera V-ONEが受賞したことに関して、ジェームズダイソン自信は、こう評価している。「彼らの開発したソリューションは、エレクトロニクスのプロトタイプをより簡単に、よりアクセス可能にするということをもたらしています。特に中小企業や学生にとって大きいです。また、より多くの新進気鋭な技術者を応援する可能性を秘めています。」

この勝利により、Voltera V-ONEは、優勝賞金の3万ポンド(約540万円)の賞金を授与、エレクトロニクス製造の分野に風穴を開けることとなった。下記はこのVoltera V-ONEの動画だが、プリント基板に導電性の銀ナノインクでなめらかに電子回路がプリントされている様が伺える。Voltera V-ONEは、この電子回路のプリント基板の生産組立ラインを拡大し、更なる販路拡大を図ることを狙っているようだ。

ジェームズダイソンアワードを受賞したVoltera V-ONE動画

2層までプリント基板の試作がオンデマンドでデジタルデータから作れる

はんだ付けまでリフロー機能によりオンデマンドで行うことを目指す

このVoltera V-ONEは最大で2層までプリント基板を試作することができる。導電性の高い、銀ナノ粒子インクを敷設し、その後層の間のマスクとして機能するインクを絶縁することで2層化を可能にしている。また、さらに特長的なのが、電子回路をプリントするだけではなく、はんだペーストディスペンサーとしての役割を担っているのが特長だと言えるだろう。

すなわち電子回路をプリントするだけではなく、はんだペーストの塗布まで行い、リフロー炉としてはんだ付けもできるというから驚きだ。通常、はんだ付けとは、簡易的な電子回路であればはんだごてによって一つ一つはんだ付けを行うが、複雑なプリント基板であれば、プリント基板にペースト状のはんだを塗布し、リフロー炉で加熱して一気にはんだ付けするのが現代のエレクトロニクスの製造である。

それをこのVoltera V-ONEでは、ソルダー(はんだ)ペーストの塗布からリフローまで対応するようになるという。この機能は現段階では実験では成功しているが、将来的に完璧なものにするという。この電子回路の3Dプリンターは、デジタルデータから回路基板の製造、さらには電子部品とはんだ付けの実装までを1台でできてしまうといった「完全なる電子回路の試作」を行うことを目指している。現在このVoltera V-ONEはプレオーダーを開始中で2016年に本格的に出荷する予定だ。

導電性銀ナノインクで電子回路を描き、絶縁材でカバーする
はんだペーストを塗布し、リフロー機能ではんだ付け

Voltera V-ONEスペック

  • サイズ:390mm×257mm×207mm
  • 重量:7kg
  • 最大ヘッド温度:240℃
  • プリントエリア:2C/s
  • 対応OS:Windows、Mac
  • CADツール:EAGLE、Altium
  • 接続タイプ:USBケーブル
  • 最小トレース幅:0.2mm
  • 最小受動サイズ:0603(はんだペースト用0402)
  • 最小ピッチ:0.8mm(はんだペースト用0.5mm)
  • 抵抗:>12mΩ/sq@70um height
  • 基板素材:FR4
  • 最大基板幅:3mm
  • はんだワイヤー合金:Sn62
  • はんだペースト:Sn42/Bi58
  • プリント時間:5分~20分、プリント後30分のハンダ付け時間

Voltera V-ONEプリンター構成

  • 導電性インクカートリッジ
  • 絶縁インクカートリッジ
  • はんだペーストカートリッジ
  • 小さなブランク基板のパック
  • 大きなブランク基板のパック
  • 推奨はんだワイヤーのスプール
回路基板の設計からはんだ付けの試作までオンデマンドで行える

まとめ 電子回路の試作が手軽にできる時代に

デジタルデータからのダイレクト製造は、既に物体を生成する3Dプリンターからエレクトロニクスの核となる電子回路の分野にまで進出しようとしてきている。今回ご紹介したVoltera V-ONEをはじめ、イスラエルのNano Dimensionなど、多層プリント基板をデジタルデータからオンデマンドで製造することができるマシーンが続々と登場しつつある。

これにより、電子回路設計もわざわざ設計後、基板の試作屋さんに外注しなくても、自社で設計から試作、製造までを手軽にできるようになる。また、将来的には、このVoltera V-ONEのように、電子部品の配置からはんだ付けに至るまで、実装の分野にも及ぶだろう。

エレクトロニクスでは当たり前の話ながらプリント基板を設計、試作したあとは、その回路が正しく動くかどうかといった確認作業が必要になる。その場合もリフロー炉といったペースト状のはんだを電子回路基板に一気に引き、加熱させて一気に電子部品を装着するといった専用マシーンがない限り、一つ一つはんだごてではんだ付けするしかない。

しかし、現在試験中とはいえ、Voltera V-ONEははんだペーストの塗布機能と、リフロー機能まで想定しており、完璧なる電子回路のプロトタイプを稼働させることを目指しているようだ。このようなエレクトロニクスのオンデマンド製造の流れを見ていると、ものづくり革命はまだまだこれからという実感が伴う。

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