3Dプリンターの影響が大きい二つの産業
3Dプリンターがもたらす社会的な変化は、今後5年から10年で静かに徐々に、しかし圧倒的なものとして広がっていくだろう。かつて、1980年台にマッキントッシュが一般家庭を対象にしたコンピューターとして注目を集め、一気にコンピュータが市民権を得たように。
また、1990年代後半にインターネットが爆発的な人気をはくしたように。今はまだ一部のインテリ層や、従来から製造分野に関わってきた企業などで注目を浴びているに過ぎないが、今後、さまざまな分野に影響を及ぼすだろう。
それはこの技術を取り入れるか取り入れないかで大きな差がつくものだ。
今はまだゆっくりと、浸透をつづけているだろうが、目に見えて人々の生活が変わり始めたときに手を打とうとしても手遅れだ。
本日はそんな3Dプリンターの影響をもっとも受けやすい二つの業界、物流業界と小売チェーンの産業についてご紹介。
第一の業界、物流 -変わる商品発送の形態-
第一に3Dプリンターの影響をもっとも受けやすい産業は物流業界だ。
これはNASAが3Dプリンターの研究開発をしている理由を考えてみれば当然のことと言える。NASAが3Dプリンターに期待している最大の理由は国際宇宙ステーションの改修に使用するためのパーツ製造に3Dプリンターが有効だからだ。
地球から宇宙ステーションに向けて代替パーツを打ち上げるのは非常にコストがかかると言われている。
しかし3Dプリンターが宇宙ステーションで使用することができれば、データがあればこと足りるし、莫大な宇宙に向けた輸送コストをかけずに済む。
これがNASAが3Dプリンターの研究開発を行う主目的だが、これと全く同じことが、地球上の全ての地域の物流でおこるだろう。
データでプリントできるものはクラウド上でデータを共有するだけで済み、距離の違い、物体の大きさの違いといった、輸送コストに影響を与えるファクターは全く無価値になる。
既にデータでやりとりするための環境は整い始めており、データの価値、著作権の価値を保護するデータ管理システムも出来始めている。UPSやキンコーズといった国際物流サービスが3Dプリントサービスに試験的に乗り出している背景にはこうした事情にあるためだ。
フランスでは郵政公社が3Dプリントサービスを開始させた。日本の郵便局が3Dプリントサービスをはじめるようなものだ。
3Dプリンターの研究開発はあらゆる素材の研究がなされており、物流の価値は、「いかに早く、いかに安く送るか」から、「いかに完成度の高いアウトプットをできるか」に変わるに違いない。
3Dプリント技術に鈍感であれば、これまで当たり前のようにあった仕事が、気づいた時にはなくなっているかもしれない。

3Dプリントサービスを取り入れる物流・郵便業界
第二の業界、小売チェーンへの影響 -異業種の参入-
3Dプリンターの影響が大きい、もう一つの産業は小売業界だ。
スーパーや百貨店など問わず影響がでる。今はまだそうではないが、極端な表現をつかえば、ほとんどのものが、3Dプリンターでプリントできるようになるかもしれない。
まだ3Dプリンターのクオリティも低く、使える材料やサイズが限られているため、広く普及してはいないが、既に3Dプリンターで生産されはじめているものもある。有名なshapewaysなどを見られれば一目瞭然だ。
3Dプリンターが普及することの小売業界への影響は2つのことが考えられるだろう。
第一は3Dプリンターで作れるものは、店頭で買わなくなるということだ。将来1家に1台あれば、お店に行かなくても自宅で作るようになる。また、自宅に無かったとしても安い3Dプリントサービスがあればそちらで購入するだろう。
これだけインターネットが普及し、ECサイトでの利用が当たり前になれば当然そうなることは容易に想像がつく。
そもそも商品さえよければ顧客には3Dプリンターで作られていようがいまいが関係ないし、店頭で買うよりも価値を感じるに違いない。
第二の影響として、異業種が小売業界のライバルとして参入してくることが考えられる。
上記で述べたように、小売店舗で購入するよりも3Dプリントサービスを利用したほうが、安く、楽に購入することができるかもしれない。
将来的に3Dプリントサービスは、巨大な生産設備をもつ、製造サービスとして立脚するようになる。
デジタルによるダイレクト製造と職人並みの後仕上げで、商品の高いクオリティが維持できれば、データを購入して3Dプリントサービスを利用するようになる。またメーカーが、小売チェーンを通すことなく、顧客とダイレクトに結びつくようになる。
3Dプリンターの最大の特長はそのカスタマイズ性だが、インターネット上で細かい消費者の要望をかなえ、オンデマンドの製造販売が可能になれば、もはや店舗で購入する必要性がなくなるだろう。
このように、一般家庭での製造、3Dプリントサービス、メーカーダイレクトと、小売業界を脅かす異業種が台頭してくることが予測される。
こうした3Dプリンターの及ぼす影響を既に予測している小売チェーンもあり、一部サービスとして取り入れることを検討している企業も存在する。
世界最大の小売チェーンウォルマートや、その参加のアズダだ。またオランダの百貨店HEMAなども3Dプリントサービスとの連携を強めている。

3Dプリントサービスを検討する小売りチェーンの記事はこちらをどうぞ
- 世界最大の小売りチェーン ウォルマートの3Dプリントサービス展開計画
- 小売店内におもちゃの3Dプリント工場を設置する PieceMakerとは
- amazonなど大手参入で二分される3Dプリント市場 -大手か職人レベルのデザイナーか-
まとめ -時代に適合する必要性-
上記で述べたが、何から何まで全てのモノが3Dプリンターで作れるわけではない。
しかし、その技術の本質を見極め、その波及するところを知っておくことと、知らないのでは今後の事業展開が大きく異なるだろう。将来3Dプリンターが広く普及した際には多くの新しいビジネスが生まれるとともに、多くの既存の業界がさまざまな影響を受けることになる。
そうした際に眠ったままでは、知らないうちに、将来の利益が失われ、多くの既存事業が脅かされることになる。
例えば3Dプリンターのメーカーでトップを走る3Dsystemsは、もはや単なる3Dプリンターメーカーではない。
昨年来さまざまな業界の企業買収を行っており、あらゆる分野のグローバル製造ネットワークになりつつある。
その範囲はクラウド上の製造ネットワークにはじまり、新興国の工場に対する3Dプリント製造サービス、おもちゃやフィギュア、3Dデータ販売と多岐にわたっている。このように全く思いもよらなかった業界や企業が、競合他社として立ちふさがる可能性が高く、3Dプリント技術は単なる技術としてではなく、時代の流れを作り始めている状況だ。
今も昔も事業を展開し、成功するうえでは、時代の流れに適合しているかどうかが非常に大きな要素になる。
特にこの二つの業界においては、技術を単純に技術としてのみとらえるのではなく、その波及効果や人の価値がどのように変化していくかをとらえ、適格に事業の方向性を決める必要が出てくるだろう。
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