3Dプリントで製造業を変えようとするイギリス政府
3Dプリント技術に投資を行い、製造業をより効率的に運営することで、国の経済発展を促進させようという動きが顕著になっている。3Dプリントの導入実績や研究開発はアメリカが盛んに行っているが、その他の先進国も追いつけ追い越せの気分で3Dプリント技術の研究開発に取り組んでいる。
とりわけ国家が主導となって積極的に取り組んでいるのがイギリスだ。イギリスは首都ロンドンがニューヨークと並ぶほどの世界最大規模の金融の中心地として知られ金融が国の経済の中心であるというイメージが強い。
また先進国の特徴としてサービス業や小売業のGDPに占める割合が多い。
このように見てみるとイギリスにはあまり製造業が盛んというイメージは無いが、いま製造業を勃興させ、グローバル市場における国際競争力を高めようとしているという。実はイギリスの製造業はGDPの10%の比率を占め、輸出に占める割合の54%に上り、250万人を雇用するほどの規模を持っている。
5つの製造業分野に1000万ポンドの資金を投資
これほどの規模をもつイギリスの製造業であるが、今新たな革新を行なおうとしている。その中心になる機関がイギリスの技術戦略委員会(Technology Strategy Board)と呼ばれるイノベーション機関で、イギリス製造業にとって重要な役割を担っている。
技術戦略委員会の目的は一言でいうと、製造プロセスを従来の体制から3Dプリンターなどを導入した最新の製造プロセスに変えることで合理的なものにし、国際市場において多くの顧客のニーズを満たす革新的な製品とサービスを提供することにある。
イギリスには自動車産業や航空宇宙産業、製薬企業などの代表的な機関産業があり、高いR&D部門を持っており国内だけではなく国際市場においてもおおきな競争力を持っている。
航空宇宙産業ではアメリカのボーイング社やロッキード・マーチン社に匹敵するほどの企業であるBAEシステムズ社が存在し、航空機エンジンや船舶、エネルギー関連等の製品開発と販売を行っているロールス・ロイス社がいるなど、高度で信頼性の高い電子機器を製造することができる技術力を持っている。
このようなもともとの技術的基盤があることから、上記の巨大コングロマリットたちだけではなく、広範にわたりイギリス政府は製造業の支援を決めたようだ。
イギリス技術戦略委員会は3Dプリントを使った添加剤製造のデザインプロジェクトに1000万ポンドを投資しており、デジタルなものと組み合わせることでこれからの時代の製造業の基盤となり、複雑な部品製造を行うことができると考えている。イギリスは具体的な分野として2013年から2014年までの間に下記の5つの分野の革新を行なうとしているようだ。
- 資源効率
- 製造システム
- 製造技術と新材料の統合
- 製造プロセス
- 製造業のビジネスモデル
3Dプリンターを利用した製造や新技術に焦点を当てている多くのイギリスのメーカーや新興企業が政府の資金援助という後押しを得ることによって更なる飛躍と製造業の革新を行なおうとしている。
まとめ
イギリスの政策から見られることは3Dプリント技術が製造業をどう変えるかということを明確に見据えている。3Dプリンターを導入したいメーカーに対して予算を投下するという政策はシンプルだが最も合理的で自国の製造業の現場を強化する最も最短の道だ。
もちろん予算をつけるだけではなくそれ以外の政策も行っているのであろうが、その道具を導入すれば製造工程が変わり、コストと時間が削減でき、企業の力を高められるのであればそうするのは当然である。即必要とあればすぐに政策を立案し具体的な行動に移すのが欧米や経済に注力する新興国の特徴だ。
国家の力である経済力を牽引しているのが自国企業の発展であるという当たり前の理論をそのまま政策に打ち出しているに他ならない。こうした傾向はイギリスだけではなく北欧諸国やシンガポールといったIT化などに先進的に取り組んでいる諸国にも言えることだ。
シンガポールも自国産業の機関産業として3Dプリント技術をとらえており、政策立案と予算投下の二つの方向から強化を図っている。シンガポールは5年間計画の資金投下を行なったり、国立大学内に専門の3Dプリント研究機関を設立したりといったことを行っている。
こうした取り組みは規模は小さくなるがフィンランドでも行われている。フィンランドはIT先進国として有名だが、3万ユーロの資金を3Dプリンター購入費用として教育機関に投資を行っている。
イギリスもアメリカもシンガポールも3Dプリント技術の導入と研究開発に官民一体となって取り組んでいる。
こうした取り組みは基本的に欧米の先進諸国や中国、ロシア、等もそうだが、自国産業の振興に関しては政府と企業は協働するのが当たり前となっている。
企業側も自社が展開する事業にとって有益と思うものは政府に要望をし、予算投下という形で事業拡大を行う。また海外進出を行う場合にも国家主導で行っており、一国の首脳が営業マンになったように自国産業を売り込みに行く。
日本もこうした他国の官民一体の取組を見習い、国家の原動力となる経済力を担う製造業を後押し機関産業としての地位を築くべきである。
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