ブロー成形は「入れ物」を作るための奥深い技術
ブロー成形は射出成形とともに最も生産性が高いプラスチックの成形方法だ。
ブロー成形のブローとは英語でいうblow、すなわち「吹く」という意味がある。読んで字のごとくプラスチックを空気で吹いて膨らませて作るところからこうした名前がついている。吹いてふくらますといってもなかなか想像がつかないが、ブロー成形で作られているモノは射出成形についで私たちの身の回りに多い。
例えば最も代表的なのはジュースやお茶などのペットボトルの容器があげられるだろう。後程詳しく述べるが、ペットボトルの容器はもともとプリフォームと呼ばれる小さい筒状のプラスチック容器をエアーで膨らませることで作られている。また、ペットボトルの容器以外にもブロー成形で作られている製品はたくさん存在する。
シャンプーや洗剤のボトルもそうだし、自動車のガソリンタンクや、毎日スーパーでもらえるビニール袋などもブロー成形で作られている製品だ。このようにブロー成形は容器や入れ物を作る上では、欠かすことができない成形方法になる。ひとことでブロー成形といっても実はかなり奥が深い技術で、ペットボトル一つとってみても、飲み物の内容物に応じて4種類の形状が存在するほどだ。
射出成形と異なる点は、射出成形が溶かしたプラスチックを金型に押し込んで固める製法だが、ブロー成形は、押し出し機を搭載したブロー成形機を使い、押し出し機で筒状のパリソンと言われる容器を作り、金型に挿入してふくらませるという製法になる。(ちなみに上記のペットボトルの場合は、あらかじめ射出成形で作られたプリフォームというパリソンを金型に入れてふくらますという方法になる。)それではブロー成形の仕組みと代表的な製品の成形方法をご説明しよう。
ブロー成形の基本的な仕組み
ブロー成形を行なうのに必要なものは上記でも述べた通り、容器のもとになるプラスチックの筒状のパリソンと金型だ。仕組みは極めてシンプルで、パリソンを金型ではさみこみ上から空気を入れてふくらませるだけ。
押し出し機で熱したプラスチックをパリソンと言われる形状にして金型に入れる。その後空気を吹き込んで膨らませることで金型に合わせた容器の形状になるといわけだ。いわば風船を型にはめて膨らませるようなイメージを持ってもらうとわかりやすい。
膨らませたプラスチックは金型でしっかりと固定し、冷却して固まったら取り出すという工程になる。基本的な加工の流れは射出成形と同じだが、射出成形と比べブロー成形の金型はそこまで大仰なものを必要としない。
射出成形の場合はプラスチックを溶かして押し込む際に非常に高い圧力が金型と型締め部分にかかっていたが、ブロー成形の場合は膨らますだけなので、金型にかかる圧力も数気圧と非常に小さくなる。
また作られるプラスチック製品も射出成形ほど複雑ではないため、設計にもそこまで手間がかからないのが特長と言える。もちろん金型や製造コストも作る物にもよるが射出成形に比べれば安く作ることができる。
ペットボトルのブロー成形
それではまず最も私たちの身の回りにあふれているペットボトルのブロー成形をご説明しよう。ペットボトルに使用されるプラスチック材料はポリエチレンテレフタレート(polyethylene terephthalate)という原料が使用されており、この頭文字をとってPETと呼ばれている。
この一見どこにでもあるペットボトルだが、実は中身の飲み物の種類に応じて、その形状・機能を使い分けているのだ。例えば炭酸飲料と緑茶などの清涼飲料水ではペットボトルの機能と形状は全く異なってくる。ここではペットボトルの基本的な成形方法と、飲料水の種類ごとの機能性と形状をご紹介しよう。
二つのブロー成形 射出ブロー成形とコールドパリソン法
ペットボトルの成形方法は冒頭で述べたように押し出し機が一体となったブロー成形とは少し異なる方法をとる。押出成形で加工する前に射出成形でペットボトルの元となるプリフォームと呼ばれる容器を作っておく必要があるためだ。プリフォームとはプラスチックの試験管のようなものと考えていただいて構わない。
このプリフォームを金型にセットし、上から空気を吹き込んでふくらませることでペットボトルの形状になる。ちなみにこのペットボトルの成形方法は2種類あり、一つが射出成形機とブロー成形機が一体となった射出ブロー成形といわれる方法だ。射出ブロー成形の特長はプリフォームをつくる射出成形機とプリフォームを膨らませるブロー成形機が一体となっていることから、プリフォームをそのまま金型に流し込んでふくらますことが可能だ。
欠点としては効率性が悪いという部分がある。というのも射出成形機とブロー成形機では成形のスピードが異なり、ブロー成形機の方がはるかに射出成形機より生産スピードが遅いため、射出成形機の生産力が生かされないという課題がある。
こうした生産効率の悪さから、最近では射出成形とブロー成形を別々の工程として行う方法が一般的だ。別々に行う場合はプリフォームを射出成形で大量に生産し、その後ブロー成形用の金型に入れ空気を入れて成形する。
この別々に行う加工方法では、一度冷却して固形化したプリフォームを金型に入れ、再び100℃近くまで過熱して柔らかくしふくらませる方法なため、冷たくなったプリフォームを再加熱することからコールドパリソン法といわれる。コールドパリソン法の最大のメリットは、いったん射出成形でプリフォームを生産していることから、複数のブロー成形機で加工が可能で、効率よく生産することができる。
内容物で異なる4種類のペットボトル
ペットボトルのブロー成形は上記のような形で作られるが、内容物の種類によって形状や機能が異なる。その種類は大きく分類すると4つの機能に分類することができる。
第一は炭酸飲料に使われる耐圧ボトルと耐熱圧ボトル、第二は緑茶やオレンジジュースなどの果汁系の飲料水に使われる耐熱ボトル、第三はミルク用の非耐熱ボトルだ。名前が似たようなものばかりでややこしいが、順にご説明しよう。まずは炭酸飲料に使用されるボトルだが、上記で述べたように2種類に分かれている。炭酸飲料は炭酸ガスを含んでいるため他の飲料水のペットボトルに比べてペットボトル内にかかる圧力が高い。
そのため、容器の厚さがその他の飲料水に比べて高強度な耐圧ボトルにしなければならない。また炭酸ガスの圧力によって変形しないように底辺が山のように別れた形状をしている。このような炭酸飲料のペットボトルには、炭酸ガスという特性に応じた設計になっているが、炭酸飲料でもファンタやカルピスソーダのように果汁や乳成分を含む炭酸飲料と、炭酸水のような果汁などを含まない炭酸飲料がある。
この果汁を含むか、含まないによって、炭酸飲料のボトルは分類されており、果汁などを含まない炭酸飲料などのボトルは、圧力に耐えうるだけの機能を備えた耐圧ボトルで作られる。一方、果汁や乳成分などを含んだファンタなどの炭酸飲料はさらに熱処理をほどこし殺菌しなければならないため、熱処理に耐えうる耐熱圧ボトルを使用することになる。
また、お茶や果汁のジュース類に使用される耐熱ボトルは圧力設計ではないが、同じように飲料水を充填する温度が85℃近い高温になるため、高い耐熱性が備わったボトルが使用される。このようにブロー成形は機能や用途に応じて構造体を微妙に変えながら成形することができる。それでは次に更に機能性を高めたブロー成形をご説明しよう。
ブロー成形のいろいろ
ブロー成形にはペットボトルや洗剤などのボトルといった容器を作る以外に、用途に応じてさまざまな成形方法ができる。昔は作るものに応じてパリソンの大きさや、金型の大きさを変えて成形を行っていたが、最近ではコンピューター制御システムを利用して複雑な形状を作ることができたり、いろいろな樹脂素材を混合させて作ったりする方法がある。ここでは単純に金型で挟み込んで成形するただのブロー成形とは違い、さまざまなブロー成形の利用方法をご紹介しよう。
多層ブロー成形 ガソリンタンクを保存する機能
ブロー成形の機能が最大限発揮されたモノとして自動車のガソリンタンクがあげられるだろう。昔はガソリンタンクを作る材料は金属が使用されるのが一般的であったが、今では軽いプラスチック製のガソリンタンクが普及してきている。
自動車や飛行機など乗り物にとって軽量化は大きな性能向上につながる。車体を軽くすることは燃費の向上につながるからだ。こうした軽量化の観点から、最近では自動車や飛行機には軽くて丈夫な炭素繊維などの新素材の利用が開始され始めている。しかしガソリンを入れるためのタンクは安全性の問題もありその成形には十分注意が払われなければならない。
通常のプラスチックではガソリンの成分が透過し、人体に対する影響を与えたり、光化学スモッグなどの環境問題を引き起こしてきたことから、その容器の製造にはかなり特殊なプラスチック成形技術が必要になる。
それがブロー成形の応用版になる多層ブロー成形と言われる製法だ。多層ブロー成形とは、プラスチックを多層化して成形する方法。多層化して成形するためには、樹脂を押し出す段階から多層化して流し込み成形するという方法がとられる。この多層樹脂に使用される素材は高密度ポリエチレンやEVOH:エチレン・ ビニルアルコール共重合樹脂が使用される。
また多層ブロー成形は上記で述べたガソリンタンク以外にマヨネーズなどの容器を作る容器の成形などにも使用される。マヨネーズの場合はガソリンタンクとは逆で、外部からの酸素流入を防止する役割を容器に持たせるために多層ブロー成形が使用される。マヨネーズ容器は酸素を通してしまうことによる内容物の劣化を防がなければならないため梱包するための容器も多層構造にして成形する。
このように多層ブロー成形は内容物を完全に密閉して保護するためにも使用される成形方法だ。
多次元ブロー成形 複雑なパイプを作る仕組み
次にご紹介するブロー成形はパイプなどの複雑な構造を作るためのコンピューター制御された成形方法だ。パイプは様々な産業用に使用されているケースが多く、自動車のインテークパイプや建築分野などでも多用されている。使用されるパイプの形状もさまざまで、直線ではなく曲がりくねったパイプや直角に曲がっているものなど作る物によってさまざまだ。
こうした曲がりくねったパイプなどを作る場合に使用されるのがコンピューター制御によるブロー成形だ。この場合は、作りたいパイプの大きさのパリソンを押し出し機で出し、コンピューターで金型の位置をコントロールしながら成形していくという方法になる。
作る形状に応じてパイプの向きや長さに合わせ金型をコンピューターでコントロールするため、自由に調整できるし、その形状ごとにわざわざ金型を作る必要もない。また金型で挟み込んで作る従来の方法で発生するバリと言われる部分をとる作業がなく、比較的早く効率的に成形することが可能だ。
この方法は多次元に金型を移動させることから多次元ブロー成形と言われている。
二重壁ブロー成形 楽器ケースや工具箱など
次にご説明するのが二重壁ブロー成形と言われる方法だ。二重壁ブロー成形は内部が中空になった二重壁を持つプラスチックパーツを作る成形技術。代表的な例でいうと楽器ケースや工具ケースなどを想像してみてほしい。内部が中空になった状態だが、特長は内側と外側が異なる形状をしたケースになっている。
ケースの内側は楽器や工具を収めるためのカタチに成形されているはずだ。このように内部が中空で外側と内側が異なるプラスチックパーツを作るための方法が二重壁ブロー成形と言われる製法だ。従来のブロー成形とことなる点はパリソンの使い方が違う点だ。
通常のブロー成形は金型内にパリソンを入れて膨らますが、二重壁ブロー成形はパリソン膨らませた状態で金型で挟み込み閉める方式になる。そうすることでパリソンが金型に張り付くことを防止し、内側と外側で形状が異なる場合でもパリソンが柔軟に金型のカタチで成形されることになる。
インフレーション成形 サランラップやポリ袋
普段スーパーなどの買い物でついてくるポリ袋。最近では有料化されているスーパーも多いが、このポリ袋もブロー成形で作られるプラスチック製品の一つだ。固体のイメージが強いプラスチック製品と異なり、薄く柔らかいことからあまり認識されていないが、ポリ袋はポリエチレンという薄いプラスチック素材で作られている。そのため略してポリ袋と言われているのだ。
このポリ袋だが、最大の特長は薄くて丈夫だという点だ。その薄さは何と最薄のもので8ミクロン、0.008mmのものまである。通常の大きい買い物袋の場合は大体20ミクロン0.02mmから30ミクロン0.03mm程度になる。
ポリ袋以外にもブロー成形で作られている薄いプラスチックがある。薄さ10ミクロンほどのサランラップもブロー成形で作られるモノの一つだ。薄くて丈夫なのが特長で日常の家庭で使用する代表的な商品だ。こうしたサランラップやポリ袋のブロー成形はインフレーション成形と言われる方法で作られている。
inflationインフレーションとは膨張という意味があり、いわば風船を膨らませる容量で樹脂を薄く膨張させるところからこうした名前がついている。押し出し機で抽出した樹脂に空気を入れて膨張させることで、樹脂の層をミクロンレベルまでうすく引き伸ばし、それをローラーで巻き取るという手法だ。
まさに分子と分子で構成されているプラスチックの特性を最大限生かした製法と言える。このインフレーション成形で作られたポリ袋やサランラップは高分子で引き伸ばせるプラスチックの特性が最大限いかされ伸ばしてもなかなか破れないという強い特性を発揮している。
まとめ
ブロー成形は上記で述べてきたとおり、我々の身の回りを構成するいろいろなモノを作るため、最も頻繁に使用されている製法の一つだ。主にその対象は容器や入れ物が中心だ。基本的には射出成形と同じようにプラスチックを溶かして金型で量産する技術だが、その奥深さは、入れるモノの内容物に応じて、プラスチックにさまざまな機能性を持たせることができる点だ。
例えば既に事例として挙げたが、飲料水のペットボトル一つ例にとってみても、4種類の異なる機能を持つペットボトルを作り出すことができる。またガソリンタンクやマヨネーズのボトルなどは内部の内容物を保護するための機能がプラスチックに組み込まれている。このようにブロー成形はシンプルな仕組みながら、素材の形状を複雑に変化させ、さまざまな機能を与えることができる優れた製法になる。
ブロー成形も射出成形と同様、一定の生産量と販売量が担保できなければ使用することができない製法だが、そこで培われた技術は実に奥が深い。プラスチックのさまざまな特性を理解し、形状と機能性を操る金型技術とそのノウハウは多くのモノづくりに必須のものだと言えよう。
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