ナイロン(ポリアミド)の特性と用途 加工の注意点と代表的製品

ナイロン(ポリアミド)の用途 靴下から自動車製品まで

ナイロンとポリアミド、大体ひとくくりで呼ばれるこのプラスチック素材は、私たちの生活に最も身近なプラスチック素材の一つだ。最も身近なものでいうと衣類の材料として使用されることが多い。

改めてご説明すると、ポリアミドはプラスチックの種類を示すもので、ナイロンはデュポン社が開発したポリアミドの製品名になる。とりわけデュポン社が開発したナイロン6,6は世界初の合成繊維として、ポリアミドの範囲を一気に拡大させた。

開発から80年近くたっているが、その使用範囲は衣類からバッグなど、多くのものに浸透している。このようにナイロンがあまりにも広く普及してしまったため、ポリアミドのことをナイロンと総称するのが一般的になっている。

このナイロン、衣類の材料として有名だが、実はさまざまな種類が存在し、その素材は多くの工業用製品に使用されている。例えば自動車用のエンジンカバーや、エンジンに空気を送り込むマニホールドなどでの使用が最も盛んだと言えるだろう。

実はナイロンは自動車製造に使用されるケースが最も多く、上記のエンジンカバーやマニホールド以外にも、アクセルのペダルやドアハンドル、シートベルトなどあらゆる部分に使われている。こうした使用はナイロンの優れた機械的特性に由来している。

また自動車製造以外にも電子機器のパーツ製造に始まり、工業用ファスナー、おもちゃ、食品用フィルム、釣り糸や歯ブラシなどその使用範囲は広範にわたっている。

ちなみにナイロンの種類は後で詳しく述べるが、一般的なものでナイロン6,6の他に、ナイロン6がある。また、耐寒衝撃性に優れるナイロン11やナイロン12、などが存在する。この数値はナイロンを作る際に使用される原料の炭素原子の数に由来するもの。また、ナイロンには、さらにそれを強化したアラミドと言われるポリアミドも存在する。

このアラミドは高耐熱性・高強度の特性を持つエンジニアリングプラスチックで、光ファイバーのケーブルや防弾チョッキなどの材料として使用されるナイロンの強化素材だ。この分野では我が国の代表的繊維メーカー東レ社や帝人などが先駆けて開発している。

本日は80年近く続く高性能素材ナイロン(ポリアミド)についてご紹介。

世界初の合成繊維ナイロン

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ナイロンは自動車用パーツから釣り糸まで幅広く使用される

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ナイロン(ポリアミド)の歴史 知られざる最先端素材

ナイロンは既に述べたようにアメリカのデュポン社によって開発されたプラスチック素材で今から約80年前の1935年に開発された。当時は「蜘蛛の糸より細く、絹よりも美しく、鋼鉄より強い」と言われ、合成繊維として女性のストッキングの製造に取り入れられたのが皮切りであった。

日本にこのナイロンが伝わったのがそれから数年後で、東レ社が1941年にナイロンの紡糸に成功、その後工業の発展とともにナイロンも素材としての進化を遂げている。ナイロンは、開発当時の表現に代表されるように、優れた靱性と摩耗特性を持ち、耐薬品性や耐熱性が高い素材として、実は常に時代の先端を引っ張ってきた素材だと言える。

例えば自動車業界はその国の最先端技術が全て結集する産業と言ってもいいが、ナイロンが使用されている部分を上げれば、二けたに達するほどだ。また自動車産業と同時に先端技術が結集すると言われる、軍需産業や航空宇宙産業、スポーツ用品などの使用も盛んにおこなわれている。このようにナイロンは歴史が古いとはいえ、その優れた機械的特性と加工のしやすさから、常に時代の先端素材として使用されている。

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ナイロン(ポリアミド)の特性

ナイロンは工業用に使用が開始されて80年近くたつ比較的古いプラスチック素材だが、その特性は数多くのプラスチック素材の中でもひときわ優れたものだと言える。合成繊維の変わりとして使用されてきた例を見ても、繊維素材のように引っ張ったり伸ばしたりしても耐えうる靱性や、擦れても摩耗しない耐摩耗性が代表的特長だ。

耐摩耗性では、綿の約10倍の強度を持ちながらも、染色性が高いことから、衣類の製造に最適とされてきた。また、プラスチック素材は全体的に熱に弱いという弱点があるが、ナイロンはプラスチックの中では比較的融点が高く、耐熱性に優れている。

例えば一般的なナイロン6は融点が225℃で、ナイロン6,6では265℃にも上る。そのほかには耐薬品性や耐油性に優れており、ガソリンやオイルに対しても優れた耐久性を誇る。

こうした優れた耐熱性や耐油性を利用し、自動車のエンジン回りでのパーツとしても使用が普及している。さらに、このナイロンの機械的特性をより高めたアラミドでは、鋼鉄を超える引っ張り強度や耐熱耐摩耗性を持つものや、高温・耐薬品性がより強化されているものがある。以下は、ナイロンとアラミドそれぞれの特長をまとめたものだ。

ナイロンの物性

  • 靱性・引っ張り強度:対摩擦性は綿の10倍の強度を持ち、靱性、引っ張り強度に優れている。
  • 耐熱性:融点が他のプラスチックよりも高く、耐熱性に優れる。ナイロン6は融点が225℃で、ナイロン6,6では265℃
  • 耐摩耗性:表面が固く耐摩耗性に優れている。
  • 耐油性・耐薬品性:結晶性が高いプラスチック素材で、耐薬品性や耐油性に優れている。酸に対しては綿の100倍の強度を持つ。
  • 耐衝撃性:吸水により耐衝撃性や柔軟性が増す。
  • 食品衛生性:食品衛生法に対応している。
  • 強化可能:ガラス繊維などその他の素材で機械的特性を強化可能

アラミドの物性

  • 靱性と引っ張り強度:鋼鉄の5倍の引っ張り強度を持つ。
  • 強度と摩耗性:通常のプラスチックに比べてはるかに強度と摩耗性に優れる。通常のハサミでは切れないほど。
  • 耐熱性:高い種類のアラミドだと融点が320℃にも達し、優れた耐熱性を持つ。
  • 紫外線には弱ナイロン(ポリアミド)の種類いという特性をもつ。

ナイロン(ポリアミド)の製法

ナイロン(ポリアミド)はこれまで述べてきたように非常に優れた物性を持っている。もともとはデュポン社が開発したものが世界初の合成繊維ということだが、その製造方法は石油から生成されるε-カプロラクタムというアミド分子を重合することで作られる。また、後述するがナイロンにはさまざまな種類があるが、基本はさまざまな種類のアミドを重合することで強靭な特性を出している。

ナイロン(ポリアミド)の種類

ナイロンにはデュポン社が開発した世界初の合成繊維ナイロン6,6や、ベーシックなナイロン6、さらに耐寒性を高めたナイロン11とナイロン12、鋼鉄以上もの強度を持った同じアミド分子による素材、パラ系アラミドや、耐熱性、防炎性を持つメタ系アラミドなど、さまざまな特性を持つ強化バージョンが存在している。ここではその代表的なナイロン(ポリアミド)をご紹介しよう。

 ナイロン6.6

ナイロン6,6はナイロン(ポリアミド)の中で最も有名で広く使われている素材。1935年にアメリカのデュポン社が開発した世界初となる合成繊維だが、いまだに多くの工業用製品で盛んに使用されている。

その使用範囲は非常に幅広く、衣類に始まり、自動車から電子機器のパーツ類、カーペットやカーテンなどのインテリア用品、スポーツバッグなどのカバン類、釣り糸、ギターの弦など、多くの分野にまたがっている。

その理由は優れた物性による。ちなみに日本ではナイロン6,6よりも染色性に優れるナイロン6の使用量が若干多い。最もナイロンが使用されている分野が自動車産業で、次いで電子機器などの使用が盛んだ。

ナイロン11とナイロン12 

ナイロン11とナイロン12は、ナイロン6やナイロン6.6の耐寒衝撃性を高めたもの。また耐久性や耐衝撃性にも優れ、融点がナイロン6などに比べてはるかに低く、吸水性も低く形状変化がない素材だ。こちらも自動車用や航空宇宙産業で使用されている。

パラ系アラミド

アラミドは全芳香族ポリアミドとも言われ、ナイロン以上に高強度・高耐熱性の素材である。基本的にパラ系アラミドとメタ系アラミドの2種類に分類されるが、パラ系アラミドは鋼鉄の5倍の引っ張り強度や高い耐熱性・耐摩耗性をもつことから、さまざまな素材の代替素材として使用が盛ん。

とりわけ発癌性物質として問題視されたアスベストやスチールワイヤーの代替素材として建築分野で使用され、耐震補強などにもその威力を発揮している。さらにはその強靭な物性は現代のインターネットインフラで必須の光ファイバーケーブルに使用され、防弾チョッキやヘルメットなどの軍事用として使用される。

メタ系アラミド

もう一種類のアラミドはメタ系アラミドと言われる強化ナイロンで、耐熱性と防炎性を高めた特殊素材。もとは耐熱性素材としてデュポン社が開発し、バグフィルターや宇宙服、防炎素材が求められる消防服などにも利用がされている。

ナイロン(ポリアミド)の加工 成形上の注意点

ナイロンは工業用製品の製造で多用される射出成形や押出成形、ブロー成形などに対応している。強度や耐熱性など多くの優れた物性を持つことからいろいろな製品に使用されるが、その成形には緻密な正確さが要求される素材でもある。

既にナイロンの特性の部分で述べたが、ナイロンはそのほかのプラスチック素材とは異なり融点が高く、溶けるときの温度依存性が高い。そのため金型を使った成形方法では温度管理をより正確に行わなければならないのだ。また、もう一つナイロンならではの物性における注意点が存在する。

それはナイロンが持つ収縮性の問題だ。一般的な金型を使った製法では、プラスチックを溶かして金型に押し込み、冷却して固体にする。その際、プラスチックは液体から固体に変化するが、同時に体積が収縮するという特性を持っている。

この熱収縮性の比率は樹脂の種類によって異なるが、ナイロンは結晶性高分子であることから、冷却化による収縮率が他の樹脂よりも比較的高いのが特徴だ。

金型を使った成形方法ではこの温度変化によるプラスチックの熱収縮を計算して金型の設計を行わなければならず、そこにはプラスチックの特性を熟知した職人技が必要だ。あるパーツを射出成形で作ろうとした場合、金型のサイズは、この樹脂の収縮率を計算に入れて作らなければならない。

例えば、ある製品のパーツを射出成形で作る場合、この収縮率を計算に入れないで金型を作ってしまうと、生産される部品は全て大きさが異なってしまい、全く役に立たなくなってしまう。このようにナイロンは熱コントロールが必要なプラスチック素材の中にあって、金型設計と加工時においてひときわ注意を払わなければならない素材だ。

3Dプリンターの材料としてのナイロン 

強靭な物性と優れた機能を持つナイロン(ポリアミド)だが、既にオンデマンド生産に対応する素材として3Dプリンターでの利用も開始されている。3Dプリンターの材料としてのナイロンはフィラメント材料としてさまざまな材料が登場している。

ナイロン12に対応する3Dプリンターを提供するのは3Dプリンターメーカーとして世界的に有名なストラタシス。ストラタシスが提供するナイロン12の3Dプリンターは、FDMと言われる熱溶解積層法をとるタイプのもの。フィラメント状の樹脂を熱で溶かして積み上げ積層していくという方法だ。

ナイロンは成形上の注意点でも述べたが、熱収縮性が高く、融点の温度コントロールを正確に行わなければならない難しい素材。そんなナイロンを使って正確に3Dプリントすることは可能なのだろうか。

おそらく、これは予測の範囲内を超えないが、ストラタシスがナイロン12を3Dプリンターの素材として採用している理由は、ナイロン12の持つ、他のナイロン素材とは異なる物性によると思われる。ナイロン12はナイロンの種類の頁で述べたが、耐寒衝撃性に優れるナイロン素材だ。

耐候性に優れ、耐衝撃性に優れているが、最大の違いは、融点が他のナイロン素材よりもはるかに低いことがあげられるだろう。ナイロン12の融点は176℃で、一般的ナイロンであるナイロン6の225℃に比べるとはるかに低い。

このことは温度からくる収縮性が通常のナイロンよりも少なくて済むことをあらわしている。また、吸湿性が他のナイロンよりも少ない特性から形状変化が少ないため、FDM方式の3Dプリンターで成形しても、熱による形状変化の影響を受けにくく、データ通りの成形がしやすいからだと思われる。

ストラタシスはこのナイロン12の3Dプリントによって、ナイロン本来が持つ耐衝撃性、耐疲労性を活かした小ロット生産を可能にしている。既に従来からナイロンが多用されてきた自動車産業や航空宇宙産業で使用され、多くのパーツの耐久性テストや試作製造に利用が開始されている。

また、デスクトップタイプ用にも3Dプリンター用のナイロンフィラメントが登場している。フィラメントメーカーのPolyMakerからはナイロンフィラメントPolyMide Copaが登場している。

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3Dプリンター用ナイロン材料については「3Dプリンターのナイロンフィラメント完全ガイド」で詳しくご紹介していますのでこちらをご参照ください。

まとめ

これまで述べてきたようにナイロンは非常に優れた性質を持つプラスチック素材の一つだ。開発から80年近く経過しているにも関わらず、その素材としての能力は全く衰えない。

開発当初はストッキングや靴下などの使用がメインであったが、今では自動車のエンジン回りや、防弾チョッキなど、ありとあらゆる工業で使用されている素材だ。

むしろ使用範囲は拡大し続けていると言ってもよく、金属やその他の素材に変わるプラスチックとして重宝されている。その一方で、種類によっては加工時における温度コントロールに精密な技術を要する素材で、コストと作る物の用途に見合った選択が必要な素材でもある。

また、3Dプリンターなどの新たな製造技術での利用も開始されているが、こうした加工時の温度コントロールなどが更にできればこの優れた素材の利用範囲が更に拡大するだろう。ナイロンは今後も多くの製品開発にとって欠かすことができない素材だ。

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