ポリアセタール(POM)の特性と用途 高い耐磨耗性を活かしたエンプラ

ポリアセタール(POM)とは 特性と用途

プラスチックにはさまざまな種類が存在する。ポリウレタン(PU)のようにゴムのような弾性を持つ素材から、アクリルのように高い透明度を持つ素材、ナイロン(ポリアミド)のように繊維として使用される素材など、その特性はさまざまだ。そんなプラスチック素材の中において、特に機械的特性に優れるものをエンジニアリング・プラスチックと呼ぶ。

通常のプラスチックに比べて特に強度に優れ、耐熱性や耐磨耗性といった特定の機能が大幅に強化されているプラスチックだ。このエンジニアリング・プラスチックには、厳密な定義は存在しないが、一般的に耐熱性に優れており、100℃以上もの環境下に長時間さらされたとしても、その機械的特性を失わない(一般的なエンジニアリング・プラスチックの基準としては、49MPa以上の抗張力と、2.5GPa以上の曲げ弾性率を保持したものをいう)。

このように、エンジニアリング・プラスチックは、本来熱に対して弱いはずのプラスチックが大幅に強化されることで、軽量であるプラスチックの特性と、金属のような強度を併せ持つ素材と行ってもいいだろう。

また、エンジニアリング・プラスチックは通常のエンジニアリング・プラスチックとスーパーエンジニアリング・プラスチックの2種類に分類され、スーパーエンジニアリング・プラスチックは耐熱性が更に強化され150℃以上の環境下でも耐えうる性質を持つ。本日はこのような機械的特性に優れたエンジニアリング・プラスチックの一つ、ポリアセタール(POM)をご紹介しよう。

ポリアセタール(POM)はエンジニアリング・プラスチックのなかで5大汎用エンプラの一つに数えられる素材で、ポリアミド、ポリカーボネート、変性ポリフェニレンエーテル、ポリブチレンテレフタレートと並び称される素材。その特性は耐磨耗性に優れた素材で、自己潤滑性がある。また剛性や靭性といった機械的特性にも優れ、高い温度安定性を持つ素材だ。

ポリアセタール(POM)は特にこうした特性から金属の代替品として使用されることが多い素材。主なもの用途としてギヤ(歯車)やベアリングといった回転するものや、グリップやフック、カバーといった耐久性が求められるパーツ類、最近ではリコーダーや木管楽器や金管楽器にも使用され、パーツとしての機能性が求められる部分に使用されることが多い。

ポリアセタール(POM)の歴史

ポリアセタール(POM)を初めて開発したのは世界第三位の化学会社デュポンだ。1952年頃に初めて合成された素材で、1956年に特許が取得、1960年になって製造が開始された素材。開発したデュポンによってデルリン (Delrin®)の商標が登録され、ポリアセタール(POM)ではなくデルリン (Delrin®)の製品名でしられる。

また、ポリアセタール(POM)は、このデルリン (Delrin®)のほかに、1961年にアメリカCelanese社(現Ticona社)によって開発され、ポリプラスチックス社によって販売されたジュラコンが登場する。後に製法の部分で詳しくご説明するがポリアセタール(POM)は、分子構造によってホモポリマーとコポリマーの二種類に分類されるが、デュポンが開発したデルリン (Delrin®)がホモポリマーであり、ジュラコンはコポリマーの代表格だ。

ポリアセタール(POM)は1960年代初頭に生産が開始され、すぐにその高い耐磨耗性からベアリング(軸受)に使用が開始される。その後も高い強度と滑らかな自己潤滑性、安価というメリットから徐々に広まり、ネジやギア、フルートやホイッスルといった楽器類などにも使用が広まっている。また、それ以外にも電子機器関連のカバーやモジュールパーツ、自動車用部品など、強度や耐久性、耐磨耗性といった機能が要求される部分には信頼性の高いプラスチック素材として普及している。

ポリアセタール(POM)の特性 長所と短所

ポリアセタール(POM)は、5大エンジニアリング・プラスチックとして優れた機能を持っている。その特性はいくつかあるが、その中で最も代表的な機能が耐磨耗性と高い強度が挙げられるだろう。ポリアセタール(POM)は、自己潤滑性が高いことから優れた磨耗性を持ち、同時に耐疲労性、高温下でも使用に耐える耐クリープ性を持つ。また電気的特性に優れ電気絶縁性が高いという機能ももち、電子機器関連のパーツ、カバー類などでの使用にも最適だ。

さらには従来から金属に変わる素材として、ベアリングを始め、ギヤ(歯車)などの代替素材として活躍している。一方で、ポリアセタール(POM)にも欠点はある。分子構造そのものに酸素が含まれているため可燃性が高く燃えやすい。また結晶性が高く透明性が無い。こうした特性はポリアセタール(POM)の一部の特性であり、以下にその長所と短所をまとめたのでご参照頂ければと思う。

ポリアセタール(POM)の長所

  • 耐磨耗性:自己潤滑性が高く、プラスチックのなかで最も高い耐磨耗性を持つ。
  • 機械的強度:高い引張り強度を持ち、高温下での使用にも耐えうる。
  • 耐衝撃性:靭性が高く高い耐衝撃性を持つ。
  • 耐クリープ性:高温の環境下においても長時間の使用に耐えうる特性を持つ。
  • 弾性率:高い弾性と弾性回復率をほこる。バネにも使用される素材。
  • 吸水性:吸水性が小さく水による形状変化がない。
  • 寸法安定性:寸法安定性が高く、小さい部品などにも最適
  • 電気絶縁性:電気絶縁性が高い。
  • 温度性:高温から寒冷まで幅広い温度環境での使用に耐える。
  • 耐薬品性:耐薬品性や耐溶剤性に優れる。
  • 後加工:レーザー加工や切削などには適している。

ポリアセタール(POM)の短所

  • 難燃性:分子構造に酸素を含むため難燃性がなく燃えやすい。
  • 耐候性:分子構造に酸素を含むため、外部での使用で変化する。安定剤が必要。
  • 接着性:接着性が悪く、適当な接着剤が無い。溶接は可。
  • 耐酸性:強酸には弱い。(有機溶剤、アルカリには耐えうる)
  • 透明性:透明性が無い。

ポリアセタール(POM)の製法と種類

ポリアセタール(POM)は結晶性プラスチックとして、オキシメチレン構造によるポリマーである。ホルムアルデヒドのみが重合したホモポリマーと、ホルムアルデヒドにエチレンオキシドが加わったコポリマーの2種類に別れる。均質重合体であるホモポリマーのポリアセタール(POM)が、デュポン社が開発したデルリンであり、共重合体のコポリマーの代表格と言われるのが、ポリプラスチックス社のジュラコンである。

どちらもポリアセタール(POM)として使用されている。このホモポリマーとコポリマーの性能の違いだが、基本的にどちらもポリアセタール(POM)としての機能を持っているが、若干性能が異なる。ホモポリマーのほうが、融点が175℃と高く、結晶性が高いため、強度や耐熱性などがコポリマーよりも優れている。一方で、コポリマーは、融点がホモポリマーよりも10℃低く、結晶性が低いため寸法安定性に優れる素材。

また耐薬品性や耐アルカリ性などはホモポリマーよりも優れている。どちらの素材もベースとなる特性は同じであるが若干の性能が異なるため使用する際には注意が必要だ。ちなみに一般的に販売されているポリアセタール(POM)のメーカーでは、ホモポリマーとして、デュポン社のデルリン、ティコナ社のCelcon®、旭化成のテナック、コポリマーとしてはポリプラスチックのジュラコン、旭化成のテナック、三菱ガス化学のユピタールなどがある。

ポリアセタール(POM)の加工

ポリアセタール(POM)で作られる製品の多くが、エンドユーザー向けのコンシューマプロダクトというよりは、工業用で使用する製品が多い。ネジやベアリング、ギヤ(歯車)、カバー、ファスナー、クリップといった種類が多く、機械部品や自動車用部品、文房具類などでの使用が盛んだ。こうした工業用パーツとしての使用が盛んな理由は、エンジニアリング・プラスチックとしてのポリアセタール(POM)の高い性能にも因るが、その一方で加工の難しさという要因も少なからず存在する。

高い強度でフックやクリップといった素材に使用される

金型での加工の難しさ 射出成形からブロー成形、押出成形に対応

ポリアセタール(POM)は、加熱して柔らかくし、冷却して硬化するといった熱可塑性樹脂の一種類ではあるが、結晶性が高く、さらには結晶化が速いといった特性を持つことから、金型を使った成形方法では射出成形ブロー成形が中心で最近では押出成形に対応したグレードのポリアセタール(POM)も登場している。またポリアセタール(POM)の特性として熱収縮率が高く、金型への密着性も高く無いため、扱いが難しい素材でもある。

例えば、金型の表面に細かいシワ模様をつけて表面加工するシボ加工などには密着性が低いことから、細かい表面を再現することが難しく、向かない素材ともいえよう。ポリアセタール(POM)は、こうした独特の樹脂としての特性を持つことから、デザイン性が求められるコンシューマ向けプロダクトよりも、機能性が優先されるパーツ類での使用が盛んだと思われる。ちなみにポリアセタール(POM)の成形方法で主流となるのが高圧力で金型に押し込む射出成形となる。

金属の代替品として重宝されるベアリングの成形などでも射出成形が用いられる。この場合は金属の周りをポリアセタール(POM)で成形するといったインサート成形という特殊な射出成形を用いる。インサート成形は、金属と樹脂といった異なる素材の組み合わせや、異なる色の成形、例えばパソコンのキーボード、コンセントの電源プラグといったものにも使用される加工方法だ。

金属の代替品として高い耐磨耗性からベアリングでの使用が盛ん
高い耐磨耗性はジッパーなどにも最適
リコーダーや木管楽器や金管楽器にも使用される

切削やレーザー加工に適した素材 文字入れで重厚感を出せる

その一方で、切削加工には適しており、フライス加工などの機械加工には適している。また、レーザーカッターでの使用やレーザー加工に対応している素材で、レーザーでの文字入れなども可能な素材だ。例えばデザイン性が要求されるコンシューマプロダクトで使用する場合には、レーザー加工での刻印、文字入れなどができる素材として重宝されるだろう。

例えば単なる印刷による文字入れに比べて高級感や重厚感を出すのにはレーザー加工が立体感も出せて重厚感も出せる。ポリアセタール(POM)はこうした加工にも使える素材だ。

ブラシなどの柄にも使用

ポリアセタール(POM)の接着 エッチングと溶着

ポリアセタール(POM)は、基本的に結合したり接着したりすることが極めて難しい素材だ。一般的な接着剤ではほぼ接着させることが不可能で、ポリアセタール(POM)を接着するためには特殊な方法が必要となる。ポリアセタール(POM)を接着するためには大きく分類すると二つの種類がある。

第一が、表面加工と接着剤による接着だ。ポリアセタール(POM)はそのままの状態では接着することができないが、表面をエッチングなどによって加工することで接着することが可能となる。エッチングとは表面加工の技法の一つで、化学薬品などを用いて表面を腐食させる加工方法。ポリアセタール(POM)の場合は高温でクロム酸でエッチング加工しそののちに、エポキシ樹脂ポリウレタン製の接着剤で接着することが可能となる。

ポリアセタール(POM)を接着する第二の方法は、溶着である。溶着とは、樹脂を接合する技術の一つで、熱可塑性樹脂を接着する技術である。熱可塑性樹脂は加熱すると柔らかくなる特性を持っているが、この溶着とは熱可塑性樹脂を融点を超えるまで加熱し、圧力を加え分子レベルで結合させてしまおうという加工方法になる。ポリアセタール(POM)は溶かして分子レベルで結合させる溶着という方法で接着することが可能だ。

まとめ 強度と耐久性が求められるパーツに最適な素材

ポリアセタール(POM)は高度なエンジニアリング・プラスチックとして、高い強度や耐磨耗性が要求される製品に使用される。その代表的なものがギヤ(歯車)やベアリングといった回転運動が伴い機械を稼働させるパーツ類だ。またブラシの柄やグリップ、フックといった強度が求められるプロダクトの素材として重宝される素材でもある。その分野は工業用パーツから楽器、日用品のパーツなど、エンジニアリング・プラスチックらしく強度と耐久性が要求される部分にパーツとして使用されることが多い。

その一方でその樹脂としての特性から金型での成形に限定があり、接着などもできないことから、適切な使用方法が求められる素材だ。また、こうした熱可塑性樹脂としての難しい特性からか、新たな製造技術である3Dプリンター用の材料としては未だ登場していないのが現状である。

しかし、もともと押出成形には不向きであったものが対応可能なグレードが登場したりと、進化が進んでいる。こうしたことから、今後のポリアセタール(POM)の開発動向にも注目したい素材だ。

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