ポリウレタン(PU)の特性と用途 進化する高分子素材

ポリウレタン(PU)とは 特徴と用途

さまざまな分子を配合することで、独自の特性を出すことができるプラスチック。その種類は100種類以上ともいわれており、今も新素材の開発が行われている。プラスチックというと一般的に硬いというイメージを伴うが、ゴムのように柔らかく弾力性を持つものも存在する。それが本日ご紹介するポリウレタン(PU)だ。

ポリウレタン(PU)は別名ウレタンゴムとも呼ばれるプラスチック素材で、ゴムのように柔らかく抗張力(引張り強度)や耐摩耗性、弾性、耐油性に優れている。ゴムは大きく分類すると天然の樹液から作られる天然ゴムと、分子の重合によって作られる合成ゴムに二分されるが、ポリウレタン(PU)は、数ある合成ゴムの種類のうち、JIS規格上Uグループという部類に属す素材。一般の合成ゴムに比べ耐熱性や耐水性は劣るものの、その用途は非常に幅広く、あらゆる工業製品に使用されている。

一般的にポリウレタン(PU)が使用されているプロダクトとして挙げられるのが、スポーツシューズの靴底などが代表的だろう。また、極めた高い伸縮性を活かし、衣類、水着といったウエア類などにも活かされている。更には発泡剤を含ませて重合すると、発泡ポリウレタンとして、防音材や接着剤といった工業用材料、バンパーやヘッドレストといった自動車用に至るまで、あらゆる工業用品に使用されている素材だ。

このように、ポリウレタン(PU)の特徴は、非常にさまざまな形状に対応しているということが挙げられるだろう。

通常、プラスチックは、加熱して硬化する熱硬化系樹脂と、加熱すると柔らかくなり、冷却されると固まる熱可塑性樹脂に大別される。これまでご紹介してきたABS樹脂や、ポリカーボネートポリエチレンポリエチレンテレフタレートポリプロピレンアクリルナイロンポリアミドといった素材は、熱可塑性樹脂に分類されるが、このポリウレタン(PU)はどちらの製法にも対応している素材だ。

本稿では、ポリウレタン(PU)の特性と幅広い種類、そしてどのようなプロダクトに使用され、適しているかを具体例を上げてご紹介しよう。

ポリウレタン(PU)の歴史

ポリウレタン(PU)の歴史は古く、もともと開発されたのはドイツだ。初めて実用化されたのが1937年、ドイツを代表する企業バイエル社が実用化を行った。バイエル社は当時は今はなき、ドイツの化学産業の巨大トラストIG・ファルベンインドゥストリーの1社で、正式には、このIG・ファルベンよって実用化が行われた。

IG・ファルベンは、第一次世界大戦以降、ドイツの化学関連、染料関連の企業が締結して成長してきた巨大企業で、悪名高き毒ガスの開発も行った企業連合だ。このIG・ファルベンは第二次世界大戦中も積極的に工業面から政府を支援、ポリウレタン(PU)の工業製品としての本格的な使用は、ドイツ軍の軍靴の靴底だと言われている。

ちなみにIG・ファルベンのIGとは、「利益共同体」を意味する言葉で、世界大戦中は、上記のバイエルを含め、大企業9社の連合体である。もちろんこのIG・ファルベンは、第二次世界大戦でドイツが敗戦を迎えた後、連合国軍の統治下において1951年に解体され現在は存在しない。

その後実質的にポリウレタン(PU)の実用化を引き継いだのは、この技術に目をつけたアメリカのデュポン社で、1959年に製品化された。日本では1963年からアメリカとの技術提携によってポリウレタン(PU)の本格的な生産が開始され現在に至っている。戦争は化学を進歩させるというが、ポリウレタン(PU)は天然ゴムを持たないドイツによって開発され進化を遂げたプラスチック素材だと言えるだろう。

ポリウレタン(PU)の特性 長所と短所

ポリウレタン(PU)は上記の歴史でもご紹介した通り、もともと天然ゴムの代替品として開発された素材。そのため合成ゴムとして極めて天然ゴムと似た特性を持っている。特にゴムの特徴である弾性や柔軟性、引張り強度に優れており、耐磨耗性や衝撃強度にも優れた性能を発揮する。

また、成形過程において硬度をさまざまな種類に変えることもでき、スパンデックスと言われる繊維製品から、発泡状の防音材、硬くて弾力がある靴底など、対応している製品のバリエーションもさまざまだ。例えばその伸縮性の高さは、繊維素材として使用された水着などからもわかるように、ポリウレタン(PU)の繊維そのものが5倍から8倍近くも伸びフィットする。高い弾性と衝撃強度の強さから、衝撃吸収に効果がある保護カバーなどにも多用される素材である。

以下、ポリウレタン(PU)の長所と短所をご紹介しよう。

ポリウレタン(PU)の長所

  • 弾性:柔軟性に優れ、高い弾性を持つ。防振効果、消音効果を発揮。
  • 耐磨耗性:非常に優れた耐磨耗性を発揮する。
  • 耐衝撃性:衝撃強度が強く、保護カバーなどに最適な機能を発揮。
  • 引張り強度:抗張力が強く、引き裂き強さなどが強い。
  • 耐油性:優れた耐油性を発揮する。
  • 耐薬品性:耐薬品性にも優れる。
  • 低温特性に優れた機能を発揮する。
  • 硬度の種類が豊富。

ポリウレタン(PU)の短所

  • 耐熱性:耐熱性に弱く、高温多湿の環境下では劣化が早まる。
  • 耐水性:加水分解などによって徐々に分解される。
  • 空気中の窒素、紫外線、熱、微生物などの影響で徐々に分解する。

ポリウレタン(PU)と劣化の問題

ポリウレタン(PU)は、その特性として、空気中の窒素や紫外線、熱、微生物など様々な影響を受けることから、徐々に分解が生じ、製品化された後に自然と劣化が進む。このポリウレタン(PU)と劣化の問題は、シューズなどのソールや、ポリウレタン(PU)で表面をコーティングされた革ジャンなどの衣類も例外なく劣化してしまう。このポリウレタン(PU)の劣化は、経時劣化と呼ばれるもので、生物における老化などとともに避けることができない特性で、製品によってある程度の差はあるが、通常2年から3年ほどが劣化の目安となっている。

ポリウレタン(PU)の製法

ポリウレタン(PU)の製法の最大の特徴は、さまざまなタイプのポリウレタン(PU)を作り出すことができる点にある。基本的にポリウレタン(PU)は、イソシアネートと水酸基を有する化合物を中心に合成される素材だが、これに発泡剤を加えて重合させるフォーム系と非フォーム系に大別される。

フォームとは発泡という意味で、軟質ポリウレタンフォームと、硬質ポリウレタンフォームの2種類を生成することが可能。一方で非フォーム系では、エラストマー(ゴム弾性)、塗料、接着剤、合成皮革、繊維の製品を生成することができる。このポリウレタン(PU)の種類については次項で詳しくご紹介しよう。

ポリウレタン(PU)の種類

ポリウレタン(PU)の製法の部分でもご紹介したが、ポリウレタン(PU)の種類は非常に豊富なのが特徴だ。その種類を大別すると、発泡剤を混ぜて重合されたフォーム系と、ゴムベースの非フォーム系に分類される。またフォーム系、非フォーム系それぞれでさまざまな形状が存在し、それによって作られる製品も多岐に渡っている。本項では、代表的な製品を例に挙げながら、ポリウレタン(PU)の種類をわかりやすくご紹介しよう。

フォーム系:発泡ポリウレタン

ポリウレタン(PU)の種類で最も象徴的なのが、合成ゴムとしての種類だが、実は世界市場で見た場合、ポリウレタン(PU)で主力となるのが、この発泡状のフォーム系だ。ここでいうフォーム(Form)とは発泡体のことを指す。その名のとおり、ポリウレタン(PU)の生成の過程において、発泡剤を混ぜ合わせたもの。

このフォーム系のポリウレタン(PU)は、自動車用のクッションや建築用の断熱材や防音材、ベッドでお馴染みのクッションなどあらゆる工業製品に使用されていることから、その市場規模は、非フォーム系の倍以上となる。このフォーム系のポリウレタン(PU)は、さらに柔らかい軟質ポリウレタンフォームと、硬い硬質ポリウレタンフォームに分類することができる。それぞれで材料、製法、加工方法、用途などが異なるが以下にその特徴と用途を簡潔にご紹介しよう。

発泡ポリウレタンの代表、スポンジ

軟質ポリウレタンフォーム:スポンジからスピーカー、インソールまで

軟質ポリウレタンフォームは柔らかいポリウレタンの発泡体だ。代表的なプロダクトとして挙げられるプロダクトは、私たちの生活にとってあまりに馴染み深いものばかり。例えば、キッチンで使用するスポンジに始まり、スピーカーやヘッドフォンなどに使用されるクッション、ベッドのクッション・マット、靴のインソール、自転車のサドル部分など、列挙すればキリがないほど。

軟質ポリウレタンフォームの特性は、常に気泡を含んでおり、圧縮に対して極めて高い復元性を持っている点が挙げられる。その発泡倍率は10倍から60倍に上り、柔らかい特性を活かし、衝撃吸収性やクッション性といった機能が最大限求められる製品に使用されることが多い。

マット

硬質ポリウレタンフォーム:断熱材として使用される素材

一方で、硬質ポリウレタンフォームはその言葉のとおり硬いウレタンフォームだ。軟質ポリウレタンフォームが圧縮しても高い復元性を持っているのとは対照的に、硬質ポリウレタンフォームは、圧縮するとほとんど復元市内。ISOの基準では、硬質ポリウレタンフォームの規定は、「50%圧縮後開放し、厚みの減少率が10%以上」と定められている。

こうした硬い発泡形状によって硬質ポリウレタンフォームは、発泡プラスチックの中においても一際高い断熱性を持つ。こうした特性から、主に使用されるのがビルや冷凍倉庫、石油タンクといった建設現場での使用が多く、断熱材として現場発泡という方法で使用されている。また、この硬質ポリウレタンフォームは加工方法やその他の強化材料の配合により、耐水性や機械的強度も向上させることができるため、家具や住宅などの構造材としても使用される。

断熱材としても使用される

非フォーム系:合成ゴムから繊維素材、接着剤に至るまで

一般的にゴムとしてのポリウレタン(PU)に馴染みが深いのが、非フォーム系のポリウレタン(PU)だろう。この非フォーム系のポリウレタンも実に我々の日常生活に馴染み深い製品が多い。その種類もさまざまであり、合成ゴムとしてシューズのソールに使用されるエラストマーや、繊維素材として使用されるスパンデックス、靴や衣類に使用される合成皮革、更には接着剤や塗料と実にバリエーションに富むのが特徴といえる。この非フォーム系のポリウレタン(PU)も代表的なプロダクトを例に挙げつつ、その特徴をご紹介しよう。

インソール

ウレタンエラストマー:2種類のウレタンゴム

非フォーム系で最も象徴的なタイプがエラストマーだ。エラストマーとはゴム弾性を有する工業用材料のことで、弾力があるという意味のelasticと、重合体であるpolymerをかけ合わせて作られた造語のこと。つまりウレタンエラストマーとはウレタンゴムのことである。このウレタンエラストマーには2種類のエラストマーがあり、それが熱を与えると硬化する熱硬化性ポリウレタンと、加熱すると加工しやすいように柔らかくなり冷却すると固形化して成形できる熱可塑性ポリウレタン(TPU)に2分される。

簡単に紹介すると、熱硬化性ポリウレタン(PU)は、熱を加えても柔らかく溶けることがなく、耐熱性が高い素材としてしられる。一方、熱可塑性ポリウレタン(TPU)は溶かして成形が可能なことから、射出成形などの量産加工に適している。また、加熱すると溶けるため耐熱性は低い。このウレタンエラストマーも使用されるプロダクトは非常に多岐に渡っており、一般的にはスポーツシューズなどのソール、自動車用のサイドパネルや、ジョイントカバーなどのさまざまな自動車部品、更にはゴルフボールや時計のリストバンド、グリップなどにも多用される。

スマートフォンケースなどにも使用される

繊維(スパンデックス):高い伸縮性を持つ素材

ポリウレタン(PU)としての使用が盛んな素材が繊維としての使用だ。繊維状にしたポリウレタン(PU)の特長はなんといってもその伸縮性を活かしたストレッチ素材としての機能だ。通称スパンデックスといわれ、「伸びる」の英語である「Expand」が語源になっている。その伸縮性はなんと5倍から8倍に伸びると言われており、この機能を活かし、水着からジャージ、スポーツウェア、スラックスといった衣類にも使用されている。またこのスパンデックスとしてのポリウレタン(PU)の使用は、衣類に留まらず、自動車シートや医療分野での使用も普及している。

ポリウレタ(PU)で作られるスパンデックス

人造皮革:革靴や革ジャンなどの革製品の素材

合成皮革としてのポリウレタン(PU)の使用は、単体での使用ではない。ナイロンポリアミドポリエステルを使ったマイクロファイバーにポリウレタン(PU)を塗布剤として浸透させて作るものである。正しくは合成皮革ではなくベースとなる革も人工的に作られることから人造皮革と呼ばれる。

この人造皮革の衣類は主に革製品、革靴の靴底や革ジャンなどに使用される。このポリウレタン(PU)の革製品は、本革を使った製品に比べて軽くて、光沢がある。また汚れにくく安価だ。しかし、弱点として。ポリウレタン(PU)の特性でも述べたとおり、徐々に劣化する特性を持っていることから、本革の製品に比べ耐久性が弱い。

人造皮革としても使用

このようにポリウレタン(PU)は発泡状のフォーム系、ゴムベースの非フォーム系と大きく分類されると2種類に分けられるが、さらにそこからゴムならではの独特の特性を活かした製品が生み出されている。それぞれ形状も異なれば機能も異なるため、ポリウレタン(PU)の利用方法も多くの可能性がある。ちなみにここでご紹介した以外に、非フォーム系の使用では、塗料や接着剤などの利用方法が存在する。

ポリウレタン(PU)の加工

上記で説明した通り、ポリウレタン(PU)の用途は非常に多岐に渡っており、対応している加工方法もさまざまだ。通常ポリウレタン(PU)は熱を加えると硬化する熱硬化性樹脂なため、一般的な熱可塑性の樹脂とは異なる金型の使い方をする。その場合は金型にあらかじめ溶かしてあるポリウレタン(PU)を流し込み、加熱して硬化させるという注型成形という方法が取られる。

また先に述べた発泡状のフォーム系のポリウレタン(PU)の場合は発泡剤を混合する発泡成形によって作り出される。更には、押出成形や圧縮成形などにも対応している素材だ。中でも、加工性がよく、最もいろいろな種類の工業製品に使用されている成形方法が、プラスチック加工の王様と言われる射出成形だ。射出成形は金型に溶融した樹脂を押し込み、冷却して硬化させる製法。

そのため、射出成形でポリウレタン(PU)を使うためには熱可塑性ポリウレタン(TPU)を使用する。この熱可塑性ポリウレタン(TPU)と射出成形によって作り出される製品は非常に幅広いジャンルに渡っており、スポーツシューズやスキー靴などのソールや、シュノーケル、足ヒレ、また自動車用のパーツ類、時計のバンド、自転車やゴルフクラブなどのグリップ、カメラのボディなど、ありとあらゆる工業製品に使用される。

あらゆるプロダクトに対応
ラジコンのタイヤまで

熱可塑性ポリウレタン(TPU)と特殊な射出成形で作り出されるゴルフボール

射出成形は、高精度なプラスチック製品を大量に迅速に生産するのに適しているが、その製法もさまざまであり、高性能や高品質なプロダクトを生産するのに適した方法でもある。例えば、熱可塑性ポリウレタン(TPU)と高性能な射出成形によって生み出される代表的なプロダクトがゴルフボールだ。

ゴルフボールは一見するとシンプルな球体に見えるが、そのシンプルな構造の中に飛距離や打感、スピン性能といった高機能を搭載したプロダクトと言えるだろう。一般的には、ゴルフのプレイスタイルによって飛距離重視のディスタンス系や、アプローチ重視のスピン系が存在するが、熱可塑性ポリウレタン(TPU)を使用したゴルフボールは打感重視のスピン系の代表的な構造と言える。

内部のコアが硬く、外側をおおうカバーが熱可塑性ポリウレタン(TPU)によって柔らかくなり、打感もよくスピンがかかるという仕組みだ。この表面のカバーを熱可塑性ポリウレタンで成形する場合に用いられるのが特殊な射出成形になる。このゴルフボールの金型は特殊な金型になり、金型の内部に、ボールのコア層を中心に配置し、サポートピンなどで固定し熱可塑性ポリウレタン(TPU)を抽出するという方法だ。

実際は複数のサポートピンや射出完了時にピンを引き抜くといった複雑な工程が必要になり、ウレタンエラストマーのゴルフボールが成形されるというわけだ。ゴルフはドライバーやアイアンといったクラブもそうだが、ボールも実にレベルの高い技術力が求められ、熱可塑性ポリウレタンと射出成形を使用した加工方法では、高度なものづくりと言えるだろう。

熱可塑性ポリウレタン(TPU)と高度な射出成形で生み出されるゴルフボール

3Dプリンターとポリウレタン(PU) カスタムシューズや新素材開発

これまで既存の加工方法によるポリウレタン(PU)の利用方法やその特性をご紹介してきたが、最新技術である3Dプリント技術においても、ポリウレタン(PU)の取組は始まっている。その一つが、ポリウレタン(PU)が使用される代表的なプロダクトとも言えるスポーツシューズへの利用だ。3Dプリンターの登場によって盛んな製品開発が、自らの身体に身に付ける製品への利用だ。

イヤホンやインソールなど人間は誰しも身体の形状が一人一人異なることから、3Dプリンターでその人にカスタムフィットすることができるプロダクトを作り出すことができるからだ。スポーツシューズや靴なども、その人個人の足の形状に合わせて製造することができる。またポリウレタン(PU)の3Dプリンターでの利用は新素材開発という部分でも登場してきている。

第一に、ポリウレタン(PU)は、冒頭でもご紹介した通り、通常の状態が加熱すると液体から固体に硬化する熱硬化性樹脂であることから、光造形の3Dプリンターの材料としてが最も一般的である。光造形の3Dプリンターの材料は、紫外線を照射することで硬化させることができる紫外線硬化性樹脂を利用しており、熱硬化性樹脂の一種ともいえる部類である。既に開発が進む光造形の3Dプリンターの材料では、ポリウレタン(PU)ベースの材料が登場してきており、柔軟で耐衝撃性が高い素材として利用が開始されている。

3Dプリンター用材料としてのポリウレタン(PU)の新素材開発の一例として挙げられるのが導電性フィラメントの開発である。フィラメントとはFDM(熱溶解積層法)による3Dプリンターの材料のことで、加熱して糸状にした樹脂を溶かし、積層して冷却し固形化するという製法。この場合のポリウレタン(PU)の利用は熱可塑性ポリウレタン(TPU)が使用される。

また、発泡ポリウレタンを利用した、大変珍しい形状記憶性がある3Dプリント材料も登場してきている。上記で述べたとおり、フォーム系の発泡ポリウレタンは、極めて高い復元性を持っており、その復元性を3Dプリントの形状記憶に活かした開発がMITで行われている。

光造形の材料としてのポリウレタン(PU)

ポリウレタン(PU)の3Dプリンター用材料として最も一般的な用途が光造形3Dプリンターの材料である。先にご紹介した通り、ポリウレタン(PU)は液体状で、加熱すると硬化する熱硬化性樹脂だが、この特性が紫外線を照射すると硬化する光造形用の紫外線硬化性樹脂に利用されていることから着々と材料化されている。光造形の材料としてのポリウレタン(PU)では、2社のメーカーから登場しているものをご紹介しよう。

Formlabs フレキシブル

光造形法は、もともと3Dsystemsが開発した造形技術だが(正確にはフランス、日本でも同時開発。特許申請や引き下げなどの問題で3Dsystemsが開発の栄光を担っている)、特許の期限が失効することによって、多数の低価格モデルが登場している。

その中でも最も早くから製品化に成功し、また、優れた性能によって光造形3Dプリンターのデスクトップの地位を築きつつあるのがFormlabs社である。Formlabsは現在、3Dプリンター本体だけではなく様々な専用材料を開発しており、その種類もエンジニアリングレベルから、ジュエリー用、歯科用と豊富にラインナップをそろえている。

ポリウレタン(PU)の材料は、エンジニアリングタイプのフレキシブルといわれる材料で、ソフトで柔軟性のある造形物が作ることができる。デスクトップタイプではForm2がSLAタイプの光造形3Dプリンターとして人気を集めている。

3種類のポリウレタン(PU)を用意。Carbon M1 3Dプリンター

もう一つ、光造形のポリウレタン(PU)の3Dプリンター用材料として開発を進めているのがCarbonだ。Carbonは、TEDカンファレンスにも登壇し、CLIP製法が従来の3Dプリント技術よりもはるかに高速で物体を造形できる技術として一躍注目を集めた新技術だが、材料開発にも特に力を注いでいる。CarbonのCLIP製法は、基本的には光造形を改良したものであることから、材料は紫外線硬化性樹脂が使用される。Carbon の提供するポリウレタン(PU)の材料は3種類あり、高い弾性率を誇る高性能ポリウレタンエラストマーであるEPUポリウレタン、適度な剛性を備えた耐久性、耐衝撃性、耐摩耗性に優れるEPUポリウレタン、強さ、剛性、および靭性を組み合わせたリジッドポリウレタンをそろえており、この3種類のポリウレタン(PU)によって、エンジニアリングレベルの様々なパーツや製品が作ることができる。

EPUポリウレタンの動画

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熱可塑性ポリウレタン(TPU)で3Dプリントシューズの課題を克服したアディダス

3Dプリントシューズは3Dプリンターが登場してから、多くの企業が試みを行っていた。シューズブランドのユナイテッドヌードや、スマートフォンアプリでカスタムシューズを提供するFeetzなどだ。しかし、こうした企業のカスタムシューズは、多くがFDM3Dプリンターとナイロンなどのフィラメント素材が使用され、カスタマイズ性は高くても、シューズ本来の機能、履き心地や、クッションによる衝撃吸収性、耐磨耗性という性能がイマイチで、実用化には至っていないのが現状であった。

3Dプリンターをエンドユーザー向け製品に用いた取組で以外に多いのが、カスタマイズ性ばかりに気を取られ、そのプロダクト本来の価値が再現されていないケースが多々存在する。いくらカスタマイズでその人に最適な形状や、好みの形状にできたとしても、製品そのものに価値がなければせっかくの最新技術も意味を成さない。

しかし、こうした既存の3Dプリントシューズの課題を克服し、本当の3Dプリンターの使い方を有効利用を編み出したのが、アディダスとマテリアライズの熱可塑性ポリウレタン(TPU)の3Dプリントである。アディダスとマテリアライズは15種類以上ものさまざまな検証を行い、その人の足にあった最適な高精度ソールを開発。独自のレーザー焼結技術とパウダー状の熱可塑性ポリウレタンによって弾力性や耐衝撃性を持つ3Dプリントカスタムシューズを完成させた。

アディダスの熱可塑性ポリウレタン(TPU)による3Dプリントカスタムシューズ

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ゴム(エラストマー)フィラメントも登場

FDM 3Dプリンター用にゴム(エラストマー)フィラメントも登場している。熱可塑性ポリウレタンをベースに開発されたもので、ゴムそのままの柔軟性と伸長性を持っている。例えばPolyMakerのPolyFlexやUP 3Dプリンター専用のゴムフィラメントなどがその代表的存在だ。

PolyMakerは代表的なフィラメントメーカーで、多数のフィラメント材料を魁夷発しており、PolyFlexもブラック、ホワイト、イエロー、オレンジの4色のゴムフィラメントが利用できる。

熱可塑性ポリウレタン(TPU)の導電性フィラメント

もう一つ3Dプリント技術での熱可塑性ポリウレタン(TPU)での取組は導電性フィラメントの開発である。導電性フィラメントの開発は、グラフェンを利用したフィラメントなど開発が各社で行われているが、熱可塑性ポリウレタン(TPU)をカーボン素材と配合することで、導電性フィラメントを開発したメーカーが登場している。この導電性フィラメントを開発したのは、Rubber3DPrintingというベンチャー企業で、ロボットの人工指の素材として熱可塑性ポリウレタン(TPU)を利用した導電性フィラメントを推奨している。

熱可塑性ポリウレタン(TPU)ならではのこれまでにない柔らかい感触と、折り曲げ可能な機能、更にはセンサー機能との連携といったことが可能になるわけだ。もちろん、このフィラメントは熱可塑性ポリウレタン(TPU)ならではの弾性や耐衝撃性を活かし、サンダルや、ラジコンタイヤなども生み出している。

熱可塑性ポリウレタン(TPU)による3Dプリンター用の導電性フィラメント

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MITの発泡ポリウレタンの特性を活かした3Dプリント材料

第三に紹介するのは、MITが開発する発泡ポリウレタンの特性を活かした3Dプリント材料の開発である。フォーム系、発泡剤を混合した発泡ポリウレタンは、スポンジなどにも使用される極めて復元性が高い素材だ。圧縮に対しても即座に元の形状に戻ろうとする特性を持っている。

この発泡ポリウレタンの特性を活かし、ワックスと発泡ポリウレタンを混合することで新たな3Dプリント材料がMITで開発された。この新素材は発泡ポリウレタンの高い復元性と、ワックス(蝋)の持つ加熱すると柔らかくなり、冷却すると硬くなるといった特性を併せ持つもの。

MITが開発した発泡ポリウレタンの形状記憶フィラメント

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このようにポリウレタン(PU)は、一つはレーザー焼結による高精度なソール製造として、もう一つは柔軟性を持つ導電性フィラメントとして、更には発泡ポリウレタンとワックスの新たな特性を持つ素材として利用が開始されている。3Dプリント技術はプラスチック素材だけではなくさまざまな素材での利用が開始されており、研究開発も進んでいる分野である。この新たなポリウレタンの3Dプリント材料の登場は、これまでポリウレタン(PU)で作られてきたものづくりのバリエーションを更に促進するだろう。

まとめ あらゆる形状に対応した進化する素材

ポリウレタン(PU)はこれまで述べてきたように、あらゆる形状に対応している。発泡状の断熱材やスポンジ、水着やジャージなどの繊維素材、人造皮革としての革製品、シューズソールやゴルフボール、自動車用パーツなどなど、その形状はさまざまな形に柔軟に対応し、製法も多岐に渡る。また、最近では3Dプリンターでの利用開発も進められており、弾性や耐衝撃性、柔軟性、復元性といった特長を活かし、利用の幅を大きく拡大している状況だ。

とりわけ注目に値するのが、3Dプリント技術での利用だ。熱可塑性ポリウレタン(TPU)でのフィラメント開発や、アディダスとマテリアライズのシューズのようなレーザー焼結としての素材、更にはMITで開発される形状記憶機能を持つ3Dプリント素材と、新たな使い方、可能性を見いだせる素材としてより重要度を増しそうだ。天然ゴムの代替品として生み出された素材が更なる進化を遂げようとしている。

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